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四百字の唄


 ◆ 第25回 木本 茂成(きもと しげなり)  日本歯科医学会常任理事

 最近"スマホ"を見ながら歩く人を見かけるのは珍しいことではなくなった。またその上、耳にはイヤホンを着けていることも日常よく目にすることである。一方、深夜にスマホの画面を凝視しながらゲームに興じ、公園を徘徊する集団のニュース映像は、スマホに操られたゾンビを連想させる光景である。そしてその間、誰一人として言葉を交わさない集団の光景を見て、背筋が寒くなる思いをしたのは私だけであろうか。
 この20年でコミュニケーションツールの普及とともに、何時でも、どこにいても、リアルタイムで連絡をとり合えるようになったことは、世界を狭小化してきた。しかし、先に例を挙げたように、Face to Faceの人と人とをつなぐ生身のコミュニケーションは希薄となり、ついには医療系大学の授業においてもコミュニケーション学を教えなければならない時代となった。今更ながらにコミュニケーションの大切さを実感しているこの頃である。


 ◆ 第24回 山﨑 要一(やまさき よういち)  日本歯科医学会常任理事

 現役世界最強と言われる囲碁棋士を相手に、人工知能「アルファ碁」が対局開始からの3連勝を含む4勝1敗で勝利したニュースが流れた。囲碁については素人であるが、聞くところによると、計算力勝負のオセロやチェスでは20年前に人間が敗れたものの、難しい将棋よりさらに数兆倍複雑で直感の重要性が問われる囲碁の世界で、こんなにも早くコンピューターに敵わなくなる日が訪れるとは衝撃だった。
 電子機器の超速的進歩に加え、ニューラルネットワークと学習機能を身につけた"脳"は、同じタイプの脳と無限の対局を繰り返し、人間より遥かに速く膨大な経験に基づいた"研鑽"を積み、"特殊な能力"に磨きをかけていったようである。
 やがて人類を超えていくであろう人工知能を人間の良きパートナーとして役立てるためには、慈愛や共感などの人が備えるより深く繊細な心理面も併せて進化させる研究が必要となる。医療を担う人々がそのお手本となることを期待する。


 ◆ 第23回 栗田 賢一(くりた けんいち)  日本歯科医学会常任理事

 口腔外科を始めた頃、先輩から「抜歯で根を残したら下手だ。将来は感染する」と教育された。はじめは「そうか」と信じていた。ある時、レントゲン写真で無症状の骨に囲まれた歯根状の不透過物を見て「これは抜歯中止の残根ではないか?」と思い、患者さんに尋ねると「20年前に抜歯を受けたが、抜けなくて途中でやめた。」とのこと。こうした症例を複数経験した頃「歯は全部抜かなくてはいけないのか?」と思い始めたが、自分は下手だと認めることになるから、到底そんなことは言えない。下顎智歯が下歯槽管に絡んでいるような場合は、まるで爆弾処理班のようにハラハラドキドキして抜歯をしてきた。ところが2004年に米国で歯根を残す抜歯「コロネクトミー」の講演を聴いてから「根を残すことは間違いではない」と思い、帰国後すぐに始め350例に達した。術後3年目までは論文にしているが、長期的に大きな問題はない。歯科における迷信への挑戦は続く。


 ◆ 第22回 大浦 清 (おおうら きよし)  日本歯科医学会常任理事

 私の所属する歯科基礎医学会は2014年秋に一般社団法人化した。今年、日本歯科医学会も一般社団法人日本歯科医学会連合として日本歯科医師会と協議を進めて法人化に向かっている。日本歯科医学会に所属する21の専門分科会、22の認定分科会も法人化を進めている学会が増えてきている(専門分科会は21分科会の内すでに17分科会が法人化している)。これからの学会は同じ分野の仲間や親しい者が集まって任意団体として会を開催するだけではなく、歯科医学の情報を如何に発信していくか、社会(国民の健康と福祉)に対して如何に貢献していくのか、が問われている。治療に関しても、各治療ガイドラインの作成、高度先進医療など、科学的根拠に基づいた歯科医療(EBD:Evidence Based Dentistry)を実践していくために日本歯科医学会が中心となり、各学会のまとめ役としての役割を果たしていく必要がある。そのために住友会長をはじめ執行部は将来を見据えた有益な事業を行っていく責任がある。


 ◆ 第21回 山本 照子 (やまもと てるこ)  日本歯科医学会常任理事

 私は本年7月に住友会長より日本歯科医学会常任理事のご指名を受けました。皆様ご承知のとおり、来年4月に学会は法人化の予定で進められております。少子高齢社会における歯科医療・歯科医学界の未来のことを考えて、向かうべき方向のひとつに、AMED(日本医療研究開発機構)やPMDA(医薬品医療機器総合機構)を積極的に活用し、知的財産を歯科界でも具体的に創造して行くことを目標の1つに掲げておられます住友会長の日本歯科医学会活動におきまして、微力ながら少しでもお役に立てるように誠心誠意努める所存です。どうぞ宜しくお願いいたします。
 "サンタクロースが街にやって来る"を観ながら聞きながら、12月24日の夜にこの小文を書いています。サンタが幸せと一緒にやってくるのを子ども達が待ちながら、優しそうなテノール歌手を囲みながら楽しげに唱っています。大人は子ども達の幸せを誓うためにこの日があるのでしょうか。平和な平安な世界を創るために大人は何をするのがいいのでしょう。昨今、このような悩みを持つようになって参りました。


 ◆ 第20回 小林 隆太郎 (こばやし りゅうたろう)  日本歯科医学会常任理事

 毎日のように顎矯正手術をしていた頃があった。よく聞く言葉で「大胆かつ繊細に」があるが、私には「丁寧かつ繊細」しかなかった。たぶん心配性からか・・・。目標は出血のない手術、いつしか下顎枝矢状分割法で100ml、50mlを切り20mlを切った。
 また、その頃から続けている事がある。「痛くない局麻下での抜歯」。自分にノルマをかけ上手になろうとしていた。「麻酔も抜歯も全く痛くなくやりますよ。いやなことがあれば遠慮なく手を挙げて下さい。」から始まる。初めのころは10人中多くの人が手を挙げた。それから5人、そして誰も挙げなくなった。もしかしたら、患者さんが気を使ってくれているのかもしれないが。
 授業や研修でこの事をたまに話す。すると本人含め、本当なのかと抜歯の依頼が来る、かなりの重圧。
 昔、先輩が語っていた。口腔外科医、「抜歯に始まり抜歯に終わる」、「たかが抜歯されど抜歯」とやはりこれからも自分に納得いくよう丁寧かつ繊細でやっていこうと思う。


 ◆ 第19回 寺尾 隆治 (てらお たかはる)  日本歯科医学会常任理事

 大学を卒業して37年目に突入した。これまでに何人の患者さんを診さしていただいたろうか。卒業当時は近隣に歯科医院が少なく、待合室は患者さんで溢れ返っていた。今では信じられない光景であった。父と二人で一日に百人を超える患者さんを診た日もあった。診療終了が夜の十時過ぎる事も稀では無かった。只々、主訴のみを治療する事の繰り返しだった様な気がする。そんな毎日に「俺の歯科医師人生、これで良いのか」との自問自答の繰り返しだった。ある時、一念発起して研修会に行く事を決意した。初めて参加した研修会で周りの先生のレベルの高さに圧倒され「これでは駄目だ。気合い入れて追いつけるよう頑張らなくては」と必死になり学生時代以上に努力し、幾つもの研修会に参加した事が懐かしい。どこまでスキルアップできたかは不明であるが、医療人として患者さんの苦しみと同じ目線で向き合う心構えを習得できた事が一番の収穫であり、財産となっている。


 ◆ 第18回 小林 慶太 (こばやし けいた)  日本歯科医学会常任理事

 卒業間もない意気盛んな頃、患者さんが来ると要治療部位を見つければ、全て治せるつもりでいた。「適合の良い充填、歯周治療、噛める補綴をして口腔機能を回復すれば治る。」と思っていた。それも、いつしか疾病への対応から個への対応が臨床であると分かってくると、「無歯顎は不健康か?」という疑問が浮かんできた。「8020」が歯科的健康の指標であるならば、「無歯顎」は不健康となる。あるとき、哲学者ジョルジュ・カンギレム(Georges Canguilhem)の著書「正常と病理」で、その答えを見いだす事が出来た。そこには「血友病患者は、明らかに異常であるが、彼らは日常生活ではあまり困る事はない。しかし、外傷などで止血困難な状態、すなわち不都合が生じた時に病的状態となる。」と書かれていた。「無歯顎も不都合が無ければ不健康ではない。」ということである。医療を提供する者は、患者さんが痒いと思った時に、痒いところを掻いてあげることが大事なのかもしれない。


 ◆ 第17回 宮﨑 秀夫 (みやざき ひでお)  日本歯科医学会常任理事

 1998年に、新潟市で70歳の600名を対象として、毎年、同時期に同じ調査項目を用いて80歳まで10年間のコホート研究を開始しました。口腔病態・機能検査に加え、採血、採尿を含む医科一般検査、主観健康・保健行動調査、食生活・栄養調査、運動機能測定など検査終了まで1人平均2.5時間を要すもので、高齢者にとっては凄くハードであったに違いありません。それでも、65%(390名)が80歳までの10年間参加なさいました。その成果は、「歯の健康力」として新健康フロンティア戦略の健康対策への導入に、また、口腔保健の世界戦略としてWHOへの政策提言に役立っています。
 一刻も早い開業医の道を目論んでいた私を、空手道部の卒業生というだけで顧問の教授に引きずり込まれた所が口腔衛生学教室でした。よくある話ですね。以来37年間、歯学研究者の末席を汚してまいりました。最初は、これも何かの「ご縁」で始まりましたが、疫学研究は信頼できる多くの仲間を必要とする中、節目ごとに素晴らしい仲間に恵まれたことから、昨今は、これも「ご先祖様のお導き」と思えるようになりました。



 ◆ 第16回 高橋 秀直(たかはし ひでなお)  日本歯科医学会常任理事

 いつの間にか私も65歳を超え、年金受給者となりました。若い頃抱いていた還暦過ぎのイメージといえば、第一線を退いて孫の面倒や趣味で過ごすというものでしたが、今の自分がそれに合致しているとは到底思えません。食生活、生活環境、医療技術、どれをとっても昔とは大違い。周囲を見ても皆、若々しく、美しく、長生きして当たり前の時代です。
 「隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む」という言葉があります。中国の後漢の光武帝が覇道のさなかで「隴を攻め滅ぼしたのに、また更に蜀も攻め取ろうとしている。人間の欲望とは際限がないものだ」と自嘲した故事によるものです。現代を生きる私たちも、さらに豊かに若々しく 、さらに美しく健康でと望みは止まることを知りません。
 日本では少子高齢化が超速で進み、人的資源の窮乏は喫緊の課題です。「老(ろう)を得て職(しょく)に臨む」元気なシルバー世代が経験を活かして貢献することが必要です。我々団塊世代ももう一頑張りというところでしょうか。


 ◆ 第15回 中島 信也(なかじま しんや)  日本歯科医学会常任理事

 20年来ご家族で定期的に来院されていた患者さんが、どういう理由か2年半ぶりで久々に来院された。体を悪くされたのかと心配したが、そうではないとのこと。ご主人と会社を切り盛りして日々忙しくされていた方だったが、数年前によくできたお嫁さんを迎えたと話されていた頃と表面的には変わらない笑顔だった。久しぶりだったので恐る恐る拝見すると、脱離、破折が放置され、かなりのう蝕歯も認められた。食生活には変化もなく、体も健康であるとのことだったが、保険証が本人から家族へ変わっており、何がしかの家族環境に変化があったことが想像できた。状況を説明し、原因因子について色々話していると、段々寂しげな表情になってきて、家族の問題でかなりのストレスがあり自暴自棄になっていることを涙ながらに語り始めた。患者さんの生活を支える歯科医療とは、ご本人は勿論のこと、ご家族も含めた生活にも介入するという術者側のリスクを同時に抱えることになる。日常臨床の場では、毎日が勉強である。


 ◆ 第14回 大浦 清(おおうら きよし)  日本歯科医学会常任理事

 1975年に薬理学の研究を始めて今年でちょうど40年になる。
 薬物療法には、原因療法、対症療法、予防療法、補充療法、緩和療法等がある。ほとんどが対症療法なので、なかなか疾患をスカッと治すことが難しい。予防療法をもっと行えば疾患も減り、医療費の抑制にもつながるであろうが、そうたやすくはいかない。一般社会においても、少子化対策、受験生の減少(特に歯学部)、学会や歯科医師会等の会員数の減少等に対して、その時々の付焼刃的なやり方ではなく、原因療法、さらには将来を見据えた予防療法(対策)を取っておけば、もっとうまくいくのにと思っている。しかし、これも、~したら、~すれば、ではtoo lateである。日本は、今後益々、超高齢化社会に進んでいくので、エビデンスに基づいた歯科医療を行い、QOLの保持に欠かせない口腔の健康を維持し、国民の健康長寿に貢献してほしいと願う昨今である。日本歯科医学会の役割は今後益々大きくなるであろう。


 ◆ 第13回 俣木志朗(またき しろう)  日本歯科医学会常任理事

 第2回の本稿で「ボート」のネタが出ましたので、それを受けて繋ぎます。フランスの詩人、ポール・ヴァレリーが、人生をボートにたとえた言葉を残しています。「ボートを漕ぐように、人は後ろ向きで未来に入っていく」。漕手にとって、目に映るのは過去の風景だけで、明日の景色は誰にも分からない。なるほど、人生というものは、見えない「明日」に向かって湖上のボートを漕いでいくようなものかもしれません。漕手には、自らが漕ぎ進んできた航跡と過ぎ去った風景しか見えませんが、舵取り役のコックスには、これから進む先が見えています。ボートは舵取り役と漕手間との高度な調和と統一が達成された時、飛躍的に艇速が伸びるものです。二期目を迎える舵取り役、住友雅人会長のもと、我々漕手はひと漕ぎ、ひと漕ぎを大事に積み重ねてゆきたいものです。しかし、ここに約束します。常任理事会の席上では、けっして船を漕ぐことのないよう会務に専念致します。



 ◆ 第12回 神原正樹(かんばら まさき)  日本歯科医学会常任理事

 医学の父であるヒポクラテスの言葉に「Life is short, Art is long」とある。このArtは本来医術を意味し、人生は短いので、医療を究めようとすると長い時間を要するので、時間を大切に、日々研鑽に励み、継承していく必要があるとのことである。私が大学に関わってきたのも約半世紀になる。この間の社会は、振り返ってみると大きく様変わりしてきた。口腔の健康も、医療が国民皆保険制度のもとで、保健は健康日本21や健診を中心とした制度により、口の健康な人が増えてきている。歯科医療は、このような変化に対応して進展してきたのか、口腔保健も同様に適応しているのであろうか。時間軸をもとに、今後の新たな歯科医療や口腔保健のあり方を議論し、構築していくことを世の中から突きつけられている。将来の豊かな社会(人生)のために。



 ◆ 第11回 森戸光彦(もりと みつひこ)  日本歯科医学会常任理事

 2015年にはnmn(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の臨床試験が開始されるらしい。老化を止めるのではなく、若返りが図れるという。「何歳まで若返りたいか?」と自問してみた。「45歳くらいかなぁ」という答えが返ってきた。大した意味はないが、それより若いと面倒なことが沢山ありそうで怖い。しかし、みんながこの物質を採り続けると、100歳以上の人間が溢れるばかりでなく、死ねない時代が来るのかもしれない。「停年はどうなるのか?」、「年金は大丈夫か?」、「家族が増えすぎないか?」、「住む場所は足りるのか?」とさまざまなことが頭をよぎる。若返ることで免疫が高まるので、疾病の罹患率も下がるだろうし、極論すると「間違いなく高齢者歯科は不要になる?」なんてことまで想像してしまう。永遠の命?不老不死は人類の永遠の課題と言われているが、限られた人生を有意義に過ごそうとするところに、ヒトとしての幸せがあるのかもしれない。



 ◆ 第10回 渡邉文彦(わたなべ ふみひこ)  日本歯科医学会常任理事

 インプラント治療を始めてから35年になるが、心に残る四人の患者さんの涙を経験した。そのうち三人は悪性腫瘍摘出後の顎骨再建に伴うインプラント補綴治療を行った時である。
 医療は「人を診る」「患者の声を聴く」を実践すべきであることは明らかであるが、一方で個人情報の流出や、治療に対する過剰なクレームがなされることがあると、どこまで患者の心の中まで入りこんで治療にあたれるかは難しい。昔の赤ひげのような治療を懐かしむ人もいる。今は治療の評価は点数で評価され、誰が行っても同じ評価となる。
 医療の本質は患者の痛みや苦痛をとり除き、失われた機能の回復を手助けし、希望を与えることである。その評価としての報酬がある。医療人の意識、患者の意識が何かかみ合わない現在の社会がそこにある。医療の原点は信頼にある。
 患者の身になって治療にあたるには、患者の心の中を覗くことも必要である。この認識を常々感じている。



 ◆ 第9回 栗田賢一(くりた けんいち)  日本歯科医学会常任理事

 高齢者とは65才以上である。私も遂に高齢者になった。高齢者の同義語は「老人、年寄り」である。こう呼ばれるのは抵抗感がある。別名を調べてみても65-74才までは前期高齢者(ヤングオールド)、75才以上は後期高齢者(オールドオールド)と高齢者は付きまとう。ヤングオールドと言われても、やはりオールドは骨董品に近い。シニアはどうか?大好きなボウリングやゴルフでは55才以上を、何とフィギュアスケートでは15才以上をシニアと呼んでいる、シニアグラスならもう15年以上使っている。どうもシニアは年齢幅が広すぎてよくない。ならばシルバーはどうか?実はシルバーは渋くて気に入っている。65才以上をシルバーエイジ、75才以上をゴールドエイジ、85才以上をプラチナエイジと呼んだらどうかと提案したい。この方が加齢とともに輝くではないか。でも、そのエビデンスは?いやいや、年齢や人生にはエビデンスなどどうでもよいと思う。



 ◆ 第8回 山﨑要一(やまさき よういち)  日本歯科医学会常任理事

 鉄腕アトムと鉄人28号、昭和30年代の子どもたちの絶対的ヒーローである。第二次大戦後のすべてを失った荒廃から、稀にみる経済発展の幕開けに差しかかろうとしていた我が国の激動の時代の中で、正義とは何か、世界平和とは何かについて、これらのアニメは幼い心に繰り返し問いかけ、科学技術の素晴らしさを説き、各世代の中でも最も夢見る幸せな幼少期を過ごせた時代である。
 不幸にして想像を絶する大規模自然災害や原発事故など困難な試練に直面しているが、けっして逃げ出さず、チーム一丸となって正面から取り組み、事態を克服するために黙々と努力し続ける各人の姿は、遠い過去から日本人の精神に深く刻み込まれ、時代が移り変っても脈々と受け継がれているとても大切な特性である。
 子どもの頃の人との関わりや様々な体験は、その後の人間形成に少なからぬ影響を与える。この国に生まれ、未来を担う世代と関わる職務に就いていることを幸せに思う。



 ◆ 第7回 永田俊彦(ながた としひこ)  日本歯科医学会常任理事

 徳島大学に務めて36年になる。長く地方で生活してみると田舎のよさが分かってくるが、若者には地方は退屈なようで、毎年、医学部歯学部では卒業生の50%前後の学生がすぐに徳島大学を離れてしまう。もともと四国出身者は3割程度と少ないのだが、以前は卒業後も大学に留まって臨床や研究に励んだ人材が沢山いたように思われる。徳島大学が将来も輝けるように若者の教育に日々力を注いでいるが、定年も近づき最近は自らのパワーも落ち気味である。学生が地方を離れる大きな要因の一つとして社会全体の大都市への一局集中化現象が上げられる。大都市と地方ではスタートラインから条件が違うところで一種の虚しさを感じているが、これは日本全体の重大な社会問題でもある。愚痴っても仕方ないので、中小企業の社長さんのように少ない人材を大切に育てつつ、少数精鋭で物事にチャレンジする気概だけは大都市の人々に負けないようにと心がけている。



 ◆ 第6回 和泉 雄一(いずみ ゆういち)  日本歯科医学会常任理事

  四百字の唄をウッカリしている間に、カワハギ釣りのベストシーズンを逃してしまった。しかし、なお熱い釣果が出ているそうだ。キモもふくらみ、想わず涎がでてしまう。海水温の低下に合わせて、狙う水深が30~50㍍と少々深くなったという。竿は先調子のカワハギ竿、独特の仕掛けを使う。エサはアサリのむき身。こちらもハリ先をワタの部分に止まるように装着。タナ取り、誘いも重要だ。「エサ取り泥棒」なので、アタリがあってからのアワセもひと工夫。アタリがありハリ掛かりさせるまでに一筋縄ではいかない相手だ。ここで一考。歯科治療はまさにカワハギ釣りそのものではないか。疾患によって治療法が決まっている。医療技術や材料の進歩がその治癒を確固たるものにしている。しかし、疾患を早く、きれいに治癒させるためには、術者の治療感覚と独特の技術が必要だ。カワハギを釣るために釣り感覚と技術を鋭くする必要があると同様、治療感覚と技術を常に磨くことが必要だ。



 ◆ 第5回 櫻井 薫(さくらい かおる)  日本歯科医学会常任理事

  四百より四つ多いが、仏教語で人間がかかる一切の病気のことを表す「四百四病」という言葉があり、人体は、地・水・火・風の四大から構成されていて、その調和が破れると、それぞれ百一の病気を生ずるとされる。総義歯でもバランスが大切で、人工歯排列と削合をきちんと行い両側性均衡と片側性均衡が成立しないとうまく咀嚼できないばかりでなく、発赤、角化、潰瘍を生ずる。有歯顎者では咬合の調和がとれていないと、歯だけではなく筋肉や顎関節も障害を受ける。ちなみに恋わずらいは、四百四病に入らないことから「四百四病の外」といわれる。
  私が理事長を務める一般社団法人日本老年歯科医学会は、ワークショップを経て「口腔機能低下症」という病名をつくった。これは舌機能、咀嚼機能、唾液分泌、味覚などの複数の機能が程度の差はあるが同時に低下している高齢者に多い疾患である。場合によっては「四百四病の外」でも口腔機能低下は起こるかもしれない。



 ◆ 第4回 井上 孝(いのうえ たかし)  日本歯科医学会総務理事

  格闘技が大好きな私が、「歯を失う原因を挙げろ」と言われたら、間髪いれず、キック、パンチ、エルボー、頭付き等と答える。生え変わる乳歯、交通外傷、齲蝕、歯周病とは思わない。
  医者の兄も熱狂的プロレスファンで、リングドクターまで勤めている。「タカシ、流血するとレフリーが試合を止めて、リングドクターをリングに上げるだろ?そんな時は、一応診る振りをするんだ。でも、絶対に試合を止めない。どんなに血が出ても所詮静脈血だ、死にゃあしない。歯なんか折れたって、抜けたって大丈夫」と嬉しそうに話す。しかし、私がプロレスラーの折れた歯を治そうという動機で、そして、プロレスのメッカ後楽園に近いという理由で東京歯科大学を選んだかどうかは定かではない。今歯科医学会で問題になっている新病名に「パンチ・キック歯壊症」、専門医に「暴力外傷専門歯科医」はどうだろう。心残りは、亡きジャイアント馬場氏の口の中を見てみたかった・・・。



 ◆ 第3回 今井 裕(いまい ゆたか)  日本歯科医学会副会長

  損傷を受けた組織の再生や機能回復を目的とした医療は「再生医療」と言われ、京都大学の山中教授により発見されたiPS細胞により、最先端医療として注目されている。しかし、この先端医療開発に際し、医療の本質である安全性の担保や科学的評価と倫理的評価との乖離が指摘され、社会問題にまで発展している。識者によれば、その解決には医療倫理の原則ならびに生命倫理における予防原則という共通した価値観に立ち戻ることが重要であるとしている。
  今、われわれ歯科という組織も傷つき、再生の必要性が叫ばれているが、歯科共通の価値観は、「歯科医学を振興することによって歯科医療を向上し、国民及び人類の福祉に貢献すること」で、ここにわれわれの矜持があると思う。歯科医学が医療分野におけるイノベーションを生み出し、組織として再生するためにも、今一度この価値観を共有し、原点へ立ち戻ることが必要で、そのためにも歯科医学会の持つ責任は大きい。



 ◆ 第2回 松村英雄(まつむら ひでお)  日本歯科医学会副会長

  今期組織が活動を開始してから1年あまりが経過した。会務については船出、順風満帆、大船に乗る、泥舟にならぬよう等々、舟艇にまつわる単語が多い。
  現役員には64年東京五輪代表、舵手なしペアの黒崎紀正顧問、76年モントリオール五輪代表、エイトの俣木志朗常任理事、日大体育会ボート部部長の松村他、元漕手を含む。学会の「舵取り」役会長は住友氏であるが、ボート、日歯の会長は共に大久保氏というのも偶然の一致である。
  昨年は、住友-俣木ボートクラブなどと称する新規プロジェクトの企画案も浮かんだが、略せば銀行に同じ(=SMBC)という偶然の一致となる。小生が最近すべり続けるギャグも所謂同音異義語の世界なのだ、としみじみ想う。
  学会は今、法人化に向けての準備と議論を進めている。分科会と日歯双方にとって最良の組織となるよう思案を重ねている。毎日地下鉄で通勤している自分にとって、当分「夜も眠れない」日々が続く。



 ◆ 第1回 住友雅人(すみとも まさひと)  日本歯科医学会会長

  TBSラジオで「誰かとどこかで」という人気番組があった。その番組中にリスナーからのはがきを紹介する「七円の唄」は、今も鮮明に耳に残っている。
  今回、日本歯科医学会のホームページに「四百字の唄」コーナーを設ける。はじめは学会の役員から登場する。
  私がこのコーナーを思いついたのは、ある業界新聞のシリーズ企画で日本歯科医学会分科会の代表者たちと対談したときである。分科会を代表する方々の幅広い見識には、いつも脱帽させられた。歯科界には、専門的知識はもちろんのこと、人としての深い見識が豊かに存在している。
  この「四百字の唄」を通して、まずは各分科会代表者の個性を知っていただき、学会の重要使命のひとつである各分科会間の連携、いわゆる横糸づくりの一環として活用していただきたい。そして歯科界ばかりでなく、あらゆる人々がこのコーナーを楽しみにしてくだされば、社会と歯科界との距離がまた少し縮まるという淡い期待も抱いている。

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