日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 8・9月号

頭と顔と歯科の話
大輪の山百合が、尾根道の両脇を埋め尽くすように咲いています。朝露を花びらの先端におく姿には、これから気温がうだるように上がるのだろうと思う足元をふと引き締めるような、清々しい美しさがあります。この大きな花は、意外に細い茎の先端にあり、どれも深々とお辞儀をするように垂れ下がっています。地面につくかうっかりすると茎が折れてしまうものもあります。これを見る道行く人はみな同じ思いと見えて、2本の花を互いに支える形にしてみたり、竹棒を地面に挿して寄りかけたりしてあるのは、今そこにいないひとの微笑ましい気持ちが伝わってきます。当の山百合も、みずから、フェンスのワイヤ-や近くの笹などにもたれかかったりして、なんとかその姿勢を保とうというけなげな努力をしています。もっと茎の太さに見合った小さな花を咲かせるか、茎をもっと太く育てるかのバランスを考えなさいといいたくなるのは私だけでしょうか。なぜこんなにもアンバランスなのか、歩く姿は百合の花、を体現するその張本人を前に、自然界の不可思議を想うこの頃です。
先日、参加した学術大会の懇親会で、これまで理論に偏り過ぎるとの印象を持っていたこの分科会の方々に、この山百合のことを紹介し「みなさま方にはこの分野の専門性を発揮して、頭の進化だけにとどまらず、技術というか臨床センスというか、茎の部分をしっかりと育て上げていただきたい、大いに期待しています」と挨拶しました。見方によっては、茎をしっかり育てたなら、大きな花を咲かせていただきたいという気持でもあるわけです。
従来、この分科会は研究者の会員が多いマニアックな集まりとの印象でしたが、多くの臨床家が参加していらしたのはうれしい誤解でした。この状況に分科会の勢いを感じた私は、さらに次のようなお話をさせていただきました。最近、みなさんの専門分野でも重要な「人の顔を見ること」が多くなっています。正確には顔のしわを見るといったほうが適当でしょうか。とりわけ眉間のしわと額のしわです。しわは皮膚の栄養不良と簡単に言いきれないのはみなさまの方がよくご存じですが、痛みを感じるとどちらのしわも瞬時に深い溝を作るのでしょうね。この2か所のしわは、人の性格や心のひだも表現しているようで、気難しくて戦闘的な性格の人は眉間にしわが寄ってきますね。額のしわは内向的な方に多いのでしょうか。苦悩によってできた心のシワが額に現れるのでしょうか。勝手な想像をしていますが、顔のしわはボトックス治療で消すことができても心の苦労のシワを伸ばすことはむずかしいでしょう。願わくば、歯科という専門性を発揮することで、多面的に心のシワを伸ばして、顔のしわも浅くして、穏やかな顔にしてあげられるといいですね。ちなみに私は、鏡を見てちょっとショックでした。額に深いしわが形成されています!何事にもポジティブな気持ちで向っていますが、学会長という任務もそれなりに大変なことだという意味にしておきましょう。
笑顔でできるしわには弾力があるようにも思いますよ。Happy Smile!
『重い百合』(東京都日野市平山城址公園にて 平成29年8月3日撮影)
2017年8月4日
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