日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 平成30年2・3月号

目指せ三方良し
積雪がわれわれの生活を窮屈にしているニュースが多いこの頃です。花粉症でのくしゃみで春の訪れを感じている方もいらっしゃるでしょうね。卒業試験、国家試験、入学試験と試験に追われる季節でもあります。今回はわれわれの2年おきの入学試験ともいえる話題です。その仕組みをよくご存じない方への情報提供です。重要ですが大笑いするような話ではありません。おまけに多くの専門用語が使用されますが最後までお付き合いください。
平成30年は公的医療保険診療報酬の改定の年です。すなわち4月1日から新しい仕組みでの医療保険がスタートします。新しい医療技術の導入とすでに保険に組み込まれている技術の見直しに至るには次のような過程を通ります。指定された組織から提出された評価対象となる提案書と先進医療会議における先進医療技術の評価結果が中央社会保険医療協議会(以下中医協)に設置された医療技術評価分科会で評価され、最終的には中医協総会で審議されて決定します。今回は平成30年1月17日の中医協総会において「平成30年度診療報酬改定に向けた医療技術の評価(案)」が承認されました。この中で「優先度が高い技術」はさらに検討が加えられ、評価点数(保険料)が決定され、4月1日から採用されます。
これに関わる多くの人々は、ここ何カ月間、大変多忙を極めます。国民からの税金を活用し、時代に合った医療を公的医療保険で提供するための彼らの努力は当たり前と思われるかもしれませんが、その真摯な働きぶりには頭が下がります。有効的に大切に運用していきたいですね。医療者側には「公的医療保険制度の下で、国民に幅広くかつ深い医療を提供する」という大義があります。そして、医療従事者には対価を伴う社会的貢献の精神も流れています。ここには連携をとる産学も加わります。それを支える日本政府・行政という存在も必要です。突き詰めればすべて患者さんのためではありますが、診療報酬改定では、それぞれの立場で、我慢での納得でなく満足感のある合意が求められます。三方良しを目指した対応です。大笑いでなくても三方がニコッとすることできればよいですね。
さて今回、診療報酬改定での医療技術評価提案書の提出総件数は969件です。そのうち日本歯科医学会で取りまとめた歯科からの提出は92件です。前回の平成28年度では総提出件数883件の内、歯科は62件で、31件が収載されました。今回は92件中40件が収載されています。収載率は43.4%です。ちなみに先進医療からは1件収載されています。
この40件の中に日本小児歯科学会からの「小児に対する口腔機能管理」と日本老年歯科医学会からの「口腔機能管理」が入っています。とりわけ「小児に対する口腔機能管理」は私が平成25年に会長に就任して以来、学会の重点研究委員会で取り組んできたテーマで、4月以降、社会と歯科医療従事者に、その重要性と対応をしっかりと示してまいります。今回の導入は子どもの「食」の問題に歯科が積極的に関わっていく契機となるでしょう。これらの「口腔機能管理」は、数年前に学会から日本歯科医師会に提案し、現在の堀執行部でボードを立ち上げて取り組んでおられる「新病名」に関わるものとして、長年の目標の実現が期待されます。
今回対応を行わないとされた技術は52件ですが、私は全く否定的に見ていません。2年後の次期改定に向けて振り返りを要するテーマが現時点で52件あるということです。言い方を変えれば歯科はすでに52件は準備しているということです。それらが今回収載されなかった理由は、時代にそぐわなかったのか、はたまた高いエビデンスが示せていなかったのか、医療費への影響が大きすぎたのかなどさまざまです。その理由を抽出し、ブラッシュアップしていくのです。今回の結果を見た瞬間からその作業に入ります。一夜漬けで合格するものではありません。その繰り返しが三方良しを目指しての活動となるのです。これも学会の重要な事業の一つです。大雪でも足元をしっかり踏みしめて滑らないように歩みます。
2018年 2月 5日
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