日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 平成30年4・5月号

終わりと始まりが交差するときに
桜の花を待ちながら
今年、東京の桜は、お彼岸中日の雪を境として一斉に咲き始めました。そしていまは一斉に散りはじめています。ところで、以前2016年、2017年の4・5月号でご紹介した桜の古木を覚えていらっしゃいますか?写真も掲載しています。今年、この木にはついに花が咲きませんでした。はたしてこの木も終焉を迎えたのか、あるいは力を蓄えて来年は咲いてくれるのか、複雑な思いで見上げる毎日でした。来年の今頃には、開花のご報告ができることを期待しています。桜に限らず、四月は終わりと始まりが交差する複雑な気持ちの時期ですね。
他の職種から学ぶ研究開発
さて今回は学会が力を入れている、歯科医療における新機能・新技術の話です。
私は1980年代中ごろに全身麻酔の自動制御の研究・開発に関わっていたこともあり、医用生体工学に興味を持っていました。そのころ所属する大学では総医局会長に就任していたことから年に何回か、総医局会主催の講演会を開催しました。就任間もないころ、この講演会に当時、東京大学先端科学技術研究センターの藤正 巌助教授をお呼びすることにしました。藤正先生は人工心臓、生体の赤外線計測、マイクロマシンなどの医用先進技術の開発に従事されており、発想の素晴らしさと見事な語り口で私には心の中の師匠でした。そのときの講演の中で今でもはっきりと記憶していることは「蚊が人の血を吸う瞬間」をとらえたスライドでした。先生はそのスライドを指しながら、この蚊の装置とセンサー技術が人工的に作り出されれば、採血や点滴時の静脈路確保に大いなる福音となる話をされました。その考えはその後の赤外線計測、マイクロマシン開発に活かされたのだと思っています。この話を最近、思い出し、そのアイディアに関する展開をネットで探索したところ一つ見つけました。ここではこのように展開されています(
「フロントランナーVol.15 蚊が血を吸うメカニズムの解明から世界で一番痛くない針の開発に挑戦(出典:WAOサイエンスパーク)。視野の広い感性が研究開発には必須ですね。
加えて必要なことは他分野との連携です。新年号でも紹介しように、動物たちのう蝕についても、最近になってさまざまな情報やデータが蓄積されてきています。たとえば種類によってはう蝕にならない動物が存在するとか、犬よりも猫の方がう蝕が少ないというような話から、何か触発される研究課題は生まれないでしょうか。獣医学分野にはう蝕になりにくい動物に関する情報が存在しているかもしれません。そこから、歯科では今まで気づかなかったう蝕対応が可能にならないでしょうか。その種の、主に該当すると思われている分野では何気ないあるいは使い古されたと思われているような研究でも、分野を超えた利用を考えていきたいと私は思うのです。たとえもう咲かないと思える桜の古木にもいつ何かのきっかけで花が噴き出すとも限らない、そういう期待を込めて見上げる感性は誰にでもあると思います。
命はどの生き物ももつ、唯一共通する財産です。そこにヒトや昆虫や動物や植物の違いはありません。よりよい命に役立つ技術の可能性に挑戦するために、異分野相互の共同研究の機会を作ること、それを支援していきたいと考えています。
「サヨナラだけが人生ならば、また来る春は何だろう」東京都日野市 平山城址公園にて
2018年 4月 4日
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