日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 令和元年11・12月号

「ダイバーシティ」「Diversity」
アマチュア無線を道楽とする私には、最近、よく耳にする「ダイバーシティ」という言葉の響きは懐かしい。電波信号を安定して、よく聞こえるようにするために複数のアンテナを方向性、偏波面、高さ(打ち上げ角度)を考慮して切り替えたり、時にはまとめてつないだりした経験がある。この通信技術が「ダイバーシティ」といわれるものであった。最近は「多様性」という意味合いで使われているようだ。これは民族間だけではなく個人として尊重され、同時に他人を尊重するという幅の広い概念において広がっている。
ラグビーワールドカップが日本で開催されて、大いに盛り上がった。日本チームを見ると、ルーツはさまざまでも日本の代表メンバーとして誇りをもって貢献しようという気持ちがひしひしと伝わってきた。決勝を戦った南アフリカとイングランドの選手たちはまさに多様性そのものだった。「ワンチーム」として全力でぶっかりあっている姿にはすがすがしささえ覚えた。大会組織委員会の嶋津昭事務総長は『今大会の盛り上がりは、ラグビーのゲームの魅力とともに、選手の振る舞いなど、ラグビーの持つ「品位」「情熱」「結束」「規律」「尊重」という5つの価値が日本人の心に響いたのではないか』とコメントしている。まさにその通りであり、あえて加えるとすれば、世界中で応援する人たちはその「多様性」にしびれたのであろう。
過日、荒井正吾奈良県知事から大変に興味深いお話を聞く機会があった。ロンドンの大英博物館で催された奈良の仏像展にはじまり、ロンドンの人種の多様性について述べられた後で、奈良というところは多くの人種によって形作られたということに触れられた。『奈良に都ができる前から、大陸などから、多くの高僧や高い技術を持っている人たちが渡来し、当時の大和人に仏教の伝道と技術の伝授を行い、そのうちに現地社会に溶け込み、日本人として暮らしているうちに奈良文化が出来上がってきた。その意味でもこの地は「多様化」でできたところです』というお話だった。
さて、アマチュア無線とラグビーと奈良県という、何の脈絡もなさそうな三題の中に漂う、つかみどころがあるような無いような言葉「多様性」「ダイバーシティ」。それは聴覚に深くしみ込んだ記憶なのか、スポーツ報道で心に響いた感動なのか、平城の昔から連綿と無意識に続いてきた多様化の歴史に刺激された知識欲なのか、前回も触れたが「東京2020(ニーゼロ、二―ゼロ)」というキャッチコピーはすでにわが国も多様性社会に入っていることの証明なのだろうか、おっと、それこそ、理屈で理解しようとすることがすでに多様な対応ができていない、社会順応性の欠如の証拠か。
文化を高く継続していくには、それぞれの分野において「多様性」をどのように受け入れていくかにかかっている。多様性の中に生きるアイデンティティこそ「品位」であり「情熱」であり、互いの「結束」、「規律」、「尊重」を生むのだろう。どれも意識しないでそれとなく変化していくのは日本風多様化なのかもしれない。
若い世代にはまだまだ東京都江東区にある「ダイバーシティ東京」の方が通りがよいようである。私の世代ではこの場所も知らない人が多いかもしれないが、そこでは「多様化」が知らず知らずにどんどんと進んでいる。そして、2020(にゼロにゼロ)はまもなくだ。
令和元年11月 5日
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