日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 師走号

「としの終わりに」
今年の11月に後期高齢者の仲間入りをしました。それは当然のことと分かってはいました。しかし「自動車免許更新のお知らせ」と、「後期高齢者医療被保険者証」が届いたとき、それがガツンという音をたてるかのように強制的に認識させられたのです。このたびの自動車免許更新は「認知機能検査」を強制します。すぐさま、つまり誕生日の6か月前に受講を申し込みました。時間に余裕のある時期を予約したかったからです。ところがどっこい、認知機能検査を受けられる日は更新期限の一か月前の何日と何日の何時、高齢者講習会は期限当月の何日の何時と何時との返事。もろもろの予約は、すでに6か月先までいっぱいになっていたのでした。世の中、どこを向いても若者であふれ、適齢になれば自動車免許を取得するのが当たり前のような時代を駆け抜けて、いまや超高齢者時代を堂々と形成しているわれわれ世代の存在を身をもって実感した瞬間であります。とはいえ、とにかく更新はしておこうと、認知機能検査から講習まで一通りの手続きを経てはみたものの、へそ曲がりの私が味わったのは、一連の流れの中に、運転への自信を失って免許の返上を考えるよう、それとなく仕組まれているのではなかろうかという疑心暗鬼の気持ちでした。ちょっとした失敗で自信を無くすとかえって運転が下手になるような気がするのです。運転に対するこれまで以上の注意喚起を促すといえばそれまでで、もちろん、それは最後に購入した大きな四つ葉マークにも如実に表現されているのではあっても。
さて四つ葉マークをつけて走るのはどんなものでしょう。予想通り、後ろの車がついてきません。意識して距離を開けています。「いやな奴だ、こっちは腕も頭もなまっているわけじゃないぞ!」と憤慨しつつ、やはり安全運転を心がけて集中する昨今です。こうなれば将来的に、8020達成ロゴマークでも作って、80歳の残存歯数と認知症の関連が報告されているのだぞ、と示して後続車に安心してもらうのも良いかもしれません。もちろん、「自動」車が、ドライバーにとっても歩行者にも、より安全な性能を備えることの方が先決だとは思います。そうすれば四つ葉マークなんかつける必要はないのですから。
さて、今年の流行語大賞には「笑顔」を推したいと思います。渋野日向子さんの笑顔はもちろんですが、笑顔には歯科が大いに貢献できるのがポイントです。歯科における「審美の維持回復」は多面的な意味合いを持っています。いまや笑顔によって見える歯や歯並びを美しくする時代から、口の役目や心の表現までを語る時代です。たとえば美しい話し方、きれいな発音、そして、おいしそうな食べ方、品の良い食べ方などにも、歯科が関わってきます。これらが歯科に求められれば、それに対応するイノベーションが必要になります。現在、私が注目しているのは咀嚼音でのASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)です。ポリポリというのはたくあんを美味しそうに噛む音、バリバリは三時のおやつのおせんべい、静かに音なしは上品な懐石料理。咀嚼音はそれを聴くだけで多くのことを語るものです。こうした咀嚼音のよい感覚反応には歯科が直接的に関われます。多くのデータを収集し、分析し、対応のハードウエア、ソフトウエアのイノベーションに期待しています。実は子どものころから歯科が介入することによって素晴らしいQOLの向上が期待できるのですが、子どもの発達支援を目指し、(一社)日本歯科医学会連合が商標登録を出願しました。この商標をもとに新しい歯科の時代がくることを期待します。
まずは笑顔で今年を締めくくりましょう。よいお正月を!
令和元年12月 2日
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