日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 令和3年7・8月号

もっと詳細な「5期目の日本歯科医学会会長として」
今期の会長選挙において、評議員のみなさま方のご支援により7月1日から会長に就任いたしました。正直5期目は考えていませんでした。コロナウイルスとの戦いがなければ静かに学会を離れる気持ちでした。
私は太平洋戦争の終わりに近い昭和19年に生まれ、子どものころは、大人たちからこの大戦の悲惨さを十分に聞かされて育ちました。いわゆる戦中生まれで、この戦争では実質なにも貢献できなかったという想いと、生まれることがすなわち希望だったのかもという複雑な、これはきっと多くの昭和19年生まれが持つ気持ちです。現在は、人類の命を狙うコロナウイルスとの戦いのまっただ中です。このコロナウイルスとの世界大戦に際し、歯科界としてもこれまでの蓄積を駆使して人類のために戦っていかなければなりません。元気な老兵も戦力になろうという熱い想いになっています。
しかし冷静に考えると、現在私が置かれている後期高齢者という立場からは「古い感性」という負のイメージもよく理解できるのです。それ故に、逆にこれを強みとして、次期の2年間で、これまでの事業成果を集約し、次世代に繋ぐことを最大の目標に加えます。
緊急事態宣言発令中は、かつての通勤時間が自宅での映画鑑賞にかわりました。これまでゆっくり映画を観ることは少なかったので、対象となる作品は数多くありました。中でも「マイ・インターン」は、新しい感性をもって頑張る若手社員たちと、経験豊かでも古い感性をもつ老人の間で交わされるギャップと共感、そこから見えた新しい社会が面白く、現在の私の立場を考えるうえでも大いに参考になりました。今期の運営にあたっては、ご協力いただく方たちが、世代や感性の違いを認め合ったうえで、それを互いに押し付けでなく役立てることができるような環境づくりに努力してまいります。
さて、私的な話も一つ。
2回目のワクチン接種を受けて2週間を過ぎてから、控えていたことを少しずつ再開しています。先ず「学会のアインシュタイン」と自称していた髪を、切りに行くことから始めました。できればいま流行りのツーブロックにしたいと、ネットでヘアスタイルを検索してみました。10代,20代、30代、40代、50代と、次々にヘアモデルが出てきたので、一応、一番気に入った30代の画像を打ち出して、半年ぶりに床屋に向かいました。なじみのオーナーはこれまた80歳で、もうワクチン接種が終わっていましたので、お互いに安心して鏡に向かい合います。長く伸びた髪をバッサリ、そして両サイドにバリカンが入りました。合わせ鏡で全体を確認し、意気揚々と自宅に帰ったときの家内の感想は「爺さん刈りにしてきたの!」という誠に寂しいモノでした。ツーブロックといっても驚く気配もなく、繰り返すようですがまことに寂しい反応でありました。
ところで私が見たツーブロックのネット情報は、なぜ50代までなのかについて考えてみて、ハタと思い当ったことがあります。60代以上になると一般的に、ツーブロックにするには髪量が足りないということなのです。やはりこれは若者に流行るヘアスタイルだというのは理解できましたし、私にはその髪型を試すチャンスがあったということが、少し私を励ましてくれました。
とはいえ、髪量はまだまだ維持できている後期高齢者でも、いつの間にか食べられるものの数は減ってきています。いわゆるオーラルフレイルの状態です。この状況は、髪型のバリエーションが減ることよりもずっと深刻です。髪型を選ぶときに、ひょんなことから、咀嚼、構音機能としての口腔を、改めて実感することになったわけです。
人生100歳時代と言われるようになりました。昔から三つ子の魂100までといわれていましたが、この100はその人の寿命がある限りという意味でした。いまや100歳は多くの人にとって実現を帯びてきたわけですが、数え年でいえばオギャーといったときは1歳です。1年近く母親の胎内で生育する期間を考えれば、数え年が妥当なのかもしれません。人生100年時代というのは、どこから数えるものなのでしょうかね。歯科の面からみても、健康寿命における「全」ライフステージへの介入は、おおいに意義のあることであります。
令和 3年 7月12日
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