日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 7・8月号

「机下と床下の秘密兵器」
7月1日から第6期目の学会会長に就任しました。日本歯科医師会などは会長交代により新体制で始まりましたが、これまでの事業の継続も求められたことから、立候補に踏み切りました。目指すポイントは自分の中で鮮明になっており、さらに素晴らしい学会の新役員に囲まれていることもあって、この歳になってもワクワクした気持ちで6期目に臨んでいます。みなさまの期待にこたえられるように活動して参ります。
さて、今回の話題も、これまでと同様にマニアックなものです。国際的に不安定な政情や大きな自然災害のニュースを見聞きするたびに、電力確保の重要性をどなたも身近に感じていることでしょう。電力にとどまらず、エネルギー確保の絶対的手段はいまだに見つかっていないように見えます。
生活環境では、ICT化が進んでいます。現在は生活のデジタル化によって、電気的な生活ノイズ(雑音)が一気に増えてきています。とりわけ住宅の電化製品から発せられるインバーターノイズの洪水です。例えば私のところで短波帯を受信すると、10年前よりもおよそ20dB(100倍以上)もノイズレベルが上がっています。これらのノイズはアンテナから入ってくるものですが、昔は自動車のイグニッションノイズがアンテナから入ってくる最大の源でした。これは車が走り去れば無くなるものですし、今では自動車部品の品質向上とEV車の普及によってあまり影響がなくなっています。アンテナ以外には、各家庭に入っている電灯線も、ノイズの入り口となっています。生活電気ノイズは固定源ですので、ほぼ連続して出ています。その除去は手ごわく個人での解決は難しいようです。例えば電灯線から入るノイズは、蓄電池で家庭電化製品を駆動するようになれば減るでしょうが、別の発生源を生む危険性もあるというようなものです。
私はノイズの専門家ではありませんが、趣味のオーデイオやアマチュア無線のために、家庭用のいわゆる電灯線からのノイズとまじめに向かいあってきました。具体的には電灯線からの外部ノイズとわが家から発するノイズを抑えるためにそれぞれの機器に供給する電灯線回路にアイソレーショントランスを入れています。効果を上げるためにより重くより大きいさまざまなトランスを求め、かつては秋葉原のなじみのトランス屋さんに「大風が吹いても住友さんところの床は吹き飛ばされることはない」と言わしめたほどでした。ケーブルの選択と入出力の分離などにもできる限り配慮しています。ノイズ遮断に効果があるといわれているラインフィルタもそこかしこに挿入しています。これだけ厳重な対応をしても、部屋が広ければきれいな仕上がりになるでしょうが、何せ狭いスペースですから、おのずと机の下を活用することと相成っています。写真は現在の環境でできる自分の最終版です。実に美しい!と感じるのは自分以外にはいないでしょうね。
もっと言えば、ノイズを減じるには、いかに性能の良いアース(接地)を設置するかが大きくものを言います。ある研究室で、教授が新人教室員に「アースをとれ」と指示したところ、すべてのアースを外したという、しゃれにならない話もありますが、よいアースとは接地抵抗が低いことをいいます。アースは、電位を安定させて装置の動作を助けることを主目的としています。基準電位を確保することで、無線機器やオーデイオ装置の安定性を保つといった効果やノイズを減ずることも期待されるなど、多くの役割を担っているアースは正に縁の下の力持ちなのです。ここで私のこだわりをお話しします。
わが家のアースは、宅地の地下75㎝の所に5m長、40㎝ほどの伝導性のコンクリート用の溝を掘り、中に幅20㎝の銅の編み線を4本包埋しています。接地抵抗は1.75オームとなっていてこれを無線機器類に接続しています。この伝導性のコンクリートを用いるアースシステムは、放送局や高速道路の中継通信設備用に北陸電力で開発されたもので、一般家庭にはほとんど使われない製品です。住宅メーカーの電気工事担当者も初めての工事ということで苦労していました。しかしこれによって、現在の家は、通信機器などの装置の安定性が変電所並みに高いと自負しています。
私は学会会長として6期目を迎えていますが、この土台となっているのは2006年から5年2期の学会執行部での経験と、離れていた2年間の間に当時の執行部が検討していた方向性のメモです。当時の副会長と総務理事を含む四役が協議を繰り返したそのメモを見て、何を具体化すればよいかを掴んだのです。したがって、引継ぎ時には臨時委員会はほとんどそのまま踏襲してスタートしました。それから今日までに、役員の方々の努力で多くの事業目的が具現化されてきました。
1982年からの40年間は、ほとんど日本歯科医学会や日本歯科医師会の委員会委員として活動しています。この間の経験は私にとってのアースであり、前執行部が検討していた方向性を指向性アンテナとしてここまで来られたのです。改めて土台づくりの重要性を実感しています。これからの2年間は、重い蓋にならないで、弾ける若い力で持ち上がる軽い蓋となって事業を展開していく所存です。後期高齢者としての立ち位置をしっかり見極めて、歯科界活性化を引き続き進めて参ります。
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写真2・3 わが家のアース工事風景(2012年春) |
令和 5年 7月23日
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