四百字の唄
◆ 第78回 津田勝則(つだ かつのり) 日本歯科医学会常任理事
/2022.03.23
今年は、全国で最も早く福岡市中央区の福岡管区気象台にあるソメイヨシノの標本木で5輪以上の花が咲いているのが確認され、3月17日に開花が発表されました。それと同じくして、コロナ禍で中止を余儀なくれていた「博多どんたく港まつり」「博多祇園山笠」の開催が決定されました。祭り好きの博多っ子にとっては朗報であり、日常が戻りつつあるうれしさもあります。
しかしながら、現下の第6波の収束の目処は立たず、感染の再拡大があるともいわれ、慎重に開催せねばと思いながら〔親子三代〕で参加している博多祇園山笠を心待ちにしています。
◆ 第77回 水口俊介(みなくち しゅんすけ) 日本歯科医学会常任理事
/2022.03.22
オミクロン株の新規感染者がようやく減少してきた。2月初旬には2万人を超えていた東京都の新規感染者数も8,000人を下回るようになっている。これからどこまで減少するか、まだまだ不明ではあるが、間もなく新学期を迎えるので、気を緩めずにかつ前向きに活動したいものである。留学生等に対する入国規制も緩和されるということでよかったなと思う。東南アジアの某国からの女性の留学生は、コロナの勢いが弱まった1昨年の12月に来日できたのだが、別の分野の大学院生に昨年4月からなる予定のご主人と、当時生まれたばかりのお子さんは、第4波、第5波の影響で母国に留め置かれたままになってしまっていた。今回ようやく来日できたわけであるが、コロナ前に現地で会ったそのお子さんは、今は2歳になっており、かわいい盛りである。この1年一緒にいられなかった留学性は、残念ではあるが、これから思い出を作ってほしいと思う。今後、オミクロンの後継株がどのようになるかは不明であるが、パンデミックを経験した社会は完全には元に戻れない。医療者や学会にかかる負担も大きくなるが、このような抗いようのない困難は、開き直り、糧とするしかない。知恵を絞り、コロナを経験した歯科医学、歯科医療をさらに向上させることが重要である。
◆ 第76回 牧 憲司(まき けんし) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.22
12月も中旬となり、今年も残すところ半月となりました。当地北九州の朝夕は寒さが増しております。街の佇まいにも冬到来&年末を感じます。この2年間は、まさに「コロナ感染に始まり終わろうとしている感」があります。来年の展開は予惻できませんが、一刻も早くこの状況が収束することを心から祈念しております。日本小児歯科学会の理事長に就任して1年半、WEB上でのインフラを進め、学会会員向けの学術セミナーの充実や全国大会、地方会大会オンライン開催などを中心に進めて参りました。座右の銘に前回の「4百字の唄」で書かしていただいた「人生至るところ青山あり」とともに「忍耐」があります。日本人は古来から非常に忍耐強い国民性があり様々な困難を超えて復興してきました。コロナ禍も必ずや乗り越えて進んでいくことを祈念しております。来年は日本小児歯科学会設立60周年を迎えます。人で言えば還暦の年を迎えることになります。還暦の年で学会が一層発展いたしますように全力を尽くしたいと考えてます。
◆ 第75回 秋山仁志(あきやま ひとし) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.17
20年以上前、薬師寺に行った際、ふと目をとめた言葉がありました。『60点で合格 たらない40点はいつ学ぶのでしょう 大切なのは たらない部分だと思うんですけど』
『たらない部分をそのままにしてはいけない』と改めて気づかされました。
それ以来、歯科学生には、「試験問題で誤った選択肢を選んだままで終わりにしてしまうと、実際の臨床でも正答肢ではないことをしてしまうよ。自分が知らない病名の診断は絶対にできないよ。自分が知らない治療方法を患者さんにできるわけがないよ。だから、わからなかったところ、間違えたところはそのままにしないで必ず勉強して理解しておくことが大切なんだよ。」と機会があれば伝えるようにしています。
歯科医学教育がもたらす重要性を認識し、歯科医学と関連領域の教育の発展と向上、次世代を担う歯科医師と歯科医学教育者の育成、国民への安心・安全な歯科医療を提供するために、今後とも誠心誠意、取り組んでまいります。
◆ 第74回 鄭 漢忠(てい かんちゅう) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.15
老人病院と老人施設でお年寄りの食事サポートをしている。病院ではNSTが食事が進まず体重減少や検査値に異常が出ている高齢者の栄養状況の改善に努めている。NSTの工夫により栄養状態が改善するケースもあるけれど、チームの力不足により何もできずに介入終了となることも少なくない。改善の見込みのない病態、食事拒否、高度の認知症、etc. NSTのチーフは今日もただため息をつく。
施設では介護職員や看護師と共に食事のサポートをしている。入所者の1/3は食事介助を必要としている。自分で食事をとれない、とりたくない入所者に食事をとらせる介助者の技術は神がかっている。食べられない人に完食させる必要はないのではないかと問いかけると、低栄養になって痩せてきたと入所者の家族に非難されたくないとのこと。頑張って最後は見取り(何が何でも食べさせることはしない)まで持っていく。
介護職は一生懸命だ。ただ正解はどこにあるのかは誰も知らない。
◆ 第73回 井上富雄(いのうえ とみお) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.13
9月に入って新型コロナウイルスの新規感染者数が急激に減少し、この原稿を書いている12月10日現在、感染者が増える兆候はみられません。日本における感染状況の落ち着きは世界の中でも顕著で、さまざまな原因・理由が報道されていますが、説得力のある説明はなされていません。つい、しかるべき説明ができない専門家が頼りなく思えてしまうのですが、よく考えてみると科学的に解明されていないことは世の中に山ほどあります。なぜ効くのか分からない薬もたくさんありますし、筆者の専門領域の脳科学では、メカニズムまで明らかになっていることはごくわずかです。科学万能だと思い込んでいた人類は、調子に乗るんじゃないとコロナウイルスにたしなめられたのかもしれません。昨今の感染状況の落ち着きに、元の生活に戻るかもという淡い期待がありましたが、オミクロン株が登場してきました。もう勘弁してくれと思わず思考が停止しそうになりましたが、曲がりなりにも医学系の科学者の端くれでありました。思い込みは極力排除し、新しい情報を常に入れて、相応の感染対策を粛々と行うニューノーマルの日常に慣れていきます。
◆ 第72回 天野敦雄(あまの あつお) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.10
9か月前、私と共同研究講座を設置してくれている会社がスポーツジムを開設した。会社の偉いさんに誘われ、お愛想入会した。豈図らんや、すっかりハマった。週3回、全力でハアハア・ゼイゼイしている。やはり私はサディスティックと再確認した。実は私、フルマラソンを20回ほど走っている。フルマラソンは辛い。折り返し点以降、ひどく悔やむ。しかしまた申し込む。これをサドと呼ぶのだろう。昭和の人間にはサドが多い。休むなと叱られ、歯を食いしばれと励まされ、現世享楽とは働いて遊ぶことと教えられた。しかし、昨今は世知辛い。不承不承でも有給休暇の消化は義務である。戦前世代が現役なら暴動必至だ。さて、ジム通いで痩せた私。筋肉も付いた。しかし、中高年のご同輩にジムはお勧めしない。サド自慢の方でもやめた方がいい。なぜなら、痩せると顔はシワだらけ。実年齢より老けて見える。さらに悪い噂も立つ。「天野先生見たか?げっそりやで。ありゃガンや。半年したら教授選やで。」
◆ 第71回 宮﨑 隆(みやざき たかし) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.06
書棚の片隅に黄ばんだ一冊の本を見つけた。1981年4月30日発行の「パパラギ - はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集、岡崎照男訳、立風書房」。ドイツで1920年に初版が出版され、その後1970年代の再出版の日本語訳書で、南太平洋サモアの酋長が欧州視察の旅で見聞きした白人文明(パパラギはサモア語で白人)への批評が書かれている。私は1979年から2年間、海外青年協力隊員として西サモアに赴任した。帰国後たまたま書店でこの本を見つけ、サモアの体験を懐かしんだが、その後40年すっかり忘れていた。今回、コロナ禍のなかで読み返して、地球温暖化対策の議論を聞きながら文明社会の方向性を案じている。
巻末の一節を紹介する。
熟せば ヤシは葉も実も落とす
パパラギの生き方は 未熟なヤシが 葉も実もしっかり かかえているようなもの
「それはおれのだ! 持って行っちゃいけない 食べちゃいけない!」
それじゃどうして 新しい実がなる?
ヤシの木のほうが パパラギよりも ずっとかしこい
◆ 第70回 小方賴昌(おがた よりまさ) 日本歯科医学会常任理事
/2021.12.01
Covid-19の感染者が、国内で急激に減少した。2021年7月以降、64歳以下のワクチン接種が急増し、集団免疫が形成されたこと、および感染の危険性が高い行動を避けたためと考えられるが、ソーシャルディスタンスの確保とワクチン接種だけでは、感染者数が激減した理由は説明できない。日本独自のデルタAY.29型が第5波の主流だったが、感染力が強いデルタ株が変異を重ね、感染後の増殖に必要な物質を作る遺伝子情報が壊れる等、自滅している可能性が指摘されている。コロナ禍で、多くの大学で学園祭が中止になる中、本学ではオンライン(Zoom)で学園祭が開催された。実は、一昨年は台風の影響で中止を余儀なくされたため、3年ぶりの開催だった。約2年間クラブ活動もできず、ほとんどの行事が中止になる中、1日のみのWeb開催であったが、学生の英知を結集した企画となり、多くの学生、教職員が参加する楽しい会となった。私は学会が重複して、録画のみでの参加であったが、楽しい企画で、久しぶりに沢山笑った顔を録画され、先生楽しそうでしたねと、何人かに言われた位、学生が頑張ったと思う。本学は体育会系で、クラブ活動も人間形成に重要な役割を果たすと考えていた矢先、ほっとした瞬間でした。
◆ 第69回 石井信之(いしい のぶゆき) 日本歯科医学会常任理事
/2021.11.29
ダイバーシテイの推進が加速され、社会全体の成長に貢献している。世界経済を牽引するGAFA、Rugby World CupにおけるJAPAN One Teamの活躍、別府を国際都市にしたAPUの躍進は、いずれもダイバーシテイが成功の鍵であった。GAFAの共通点は、ダイバーシテイに女性と高学歴を加えた3要素に集約される。アップル創業者のSteve Jobsは、大学中退でマリファナ漬けのヒツピーで、いわば「オタク」代表でもある。強烈な個性を持つ人達がGAFAを設立した。現在、国内歯科大学にもダイバーシテイの波は訪れ、女子学生と留学生の比率は毎年増加し、文系・芸術系分野から歯科医を目指す人材も増加している。第24回日本歯科医学会学術大会は「逆転の発想」をテーマに「ダブルキャリア―からのメッセージ」が特集され、多様性の才能に共感した。社会のイノベーションには、同じ属性ではなく異なる属性の集まり、すなわち「若者、バカ者、よそ者」が必須である。日本経済と歯科医療の活性化は、これまでの成功体験や既成概念の固執から離れ、社会の変革を捉え面白いことを始めたいと思う多様性で変態的な創造的発想を持つ人が必要とされる。(2021年11月バカ者代表)
◆ 第68回 弘中祥司(ひろなか しょうじ) 日本歯科医学会常任理事
/2021.11.26
「wit(ウイット)」とはその場その時に応じて気のきいたことを言う知恵。機知。頓知(とんち)。とある(Google Languageの定義)。住友会長の四役に就いてはや2期目、住友会長然りと、少し嗜む余裕が出てきているが、四役会議は、人数が少ないために、自分発信のwitの内容について、諸先輩方から真面目に深堀されると赤面する時もある。当然、切迫した議題の時には、witは封印しているが、切迫感を打開したい際には、witはIce Breakのように効果的なコミュニケーションツールであると、多くの会議で学んだ。これも逆転の発想なのであろう!自分は会議という良い学びの場に、多く参加させて頂いていることに感謝しなければならない。これも逆転の発想である。
ただし、調子に乗ってwitを連発すると小林総務理事のとても乾いた笑いが自分の胸に突き刺さる。たぶん心の中で《早く、議事に戻って進行したいなぁ》と思っていらっしゃるのだろう。すみませんでした。四百字の言い訳です。
◆ 第67回 小林隆太郎(こばやし りゅうたろう)日本歯科医学会総務理事
/2021.11.24
1982年6月のゴルゴ13病原体・レベル4の中で、村の長老が「森は人間のものではない、神様の棲むところ、神様が怒ると悪魔をつかわす」と。これはアフリカの密林地帯でのミドリ猿密猟から始まり世界に広がっていったウイルス感染症の話です。昔話しにもよく出てくる「この森に入ってはいけない」は、森の中にいるウイルスに接触させないため、繰り返しの歴史から学んだものでは? なぜ、今、ウイルス感染症が? それは私たちが恩恵を受けている現代生活に直結、具体的には、農業の拡大、採掘、インフラ発達などのための大規模な森林破壊、それにより野生動物の病気が人間に伝わり、人間を介して世界中に広がる。人間が自然界に侵入すればするほど、その勢いは加速していくだろうとも言われています。森林との境目にある農場や動物が取引される市場などは、人間と野生動物のいる場所の境界線があいまいで、感染発生の可能性が高いと考えられます。
これに加え、地球温暖化による永久凍土に潜む未知のウイルスの出現も。今、新たなパンデミックに備える戦略を進めていかなくては。世界では新たな感染症のアウトブレイクに備えるため研究を含めさまざまな対策が模索されています。
◆ 第66回 川口陽子(かわぐち ようこ)日本歯科医学会副会長 /2021.11.22
約30年前、国際学会で初めて座長を務めることになった時、海外の女性研究者に質問してみた。英国人は「chairmanは職業を示すので、女性がchairman を使っても問題ない」、オーストラリア人は「chairmanは男性を指すので、女性の場合はchairpersonと言いなさい」、米国人は「性別に関係なく使用できるchairを使いなさい」と三者三様の回答であった。同じ英語圏の人でも文化の違い、歴史的背景、個人の考え方等によって言葉のとらえ方に違いがあることを知って興味深かった。
昨今、わが国でもさまざまな分野においてジェンダーに関連した男女共同参画の取組みが推進されている。英語と違って日本語にはもともと職種や職位を示す用語に性別を組み入れた言葉は少ない。しかし、女性大臣、女性社長、女性教授等と呼ぶことはあっても、男性大臣、男性社長、男性教授という言葉は聞いたことがない。上位職にある女性の数が少なかったので強調されてきたと考えられる。性別を意識しなくてもよい平等な社会の実現を希望している。
◆ 第65回 松村英雄(まつむら ひでお) 日本歯科医学会副会長 /2021.11.19
第24回学術大会の準備が佳境に入った頃、ポスター担当がメビウスの輪の中におわんボートのイラストを載せた。Dr. Jが「このまま漕ぐと転覆しますよ」と指摘し、輪の下方に配置することとなった。しかし、シングルスカルであると孤独感が強いのでエイトに変更された。リガーがバウサイドストロークにならず、かつ見栄えがするキャッチ前を再現し、艇はスタート地点への配置となった。後にディスプレー上でシルエットがフィニッシュとフォワードを繰り返す動画となり、別制作の動画と共にエイトが前進する画像が完成した。
担当: | J先生、どうしてスカルからエイトに変更したのですか? |
J: | 実はポスターには隠れタイトルがありまして「患者にエイト」としてみました。スタッフが5人の場合は舵手付フォアでも良かったのですが。 |
担当: | 患者さんが来院した時はInfinityブロックのクラウンをInfinityレジンで装着できるということですね! |
◆ 第64回 今井 裕(いまい ゆたか) 日本歯科医学会理事 /2020.12.14
2020年コロナ禍という特別な年の暮れに、2回目の「400字の唄」の筆を執っている。前回から6年余の歳月が流れ、歯科医学会での立場も変わり外から眺めることが出来るようになるとともに、現在は新たな歯科専門医の創設に関わる貴重な機会を得ている。
歯科の専門性については、これまで長い間様々な検討がなされているが、何故か全てが中断されており、その難儀さが窺われる。歯科の専門性を協議するにつれ、「歯科医学・歯科医療とは何か?」が問われていることに気付かされ、協議が難儀する理由のひとつであると確信した。
現在の歯科医学会の活動は多岐に渡り、その存在意義を高め、今後も更なる発展を続けるものと思われる。しかし、一度原点に帰り「歯科医学・歯科医療とは何か?」を各界から英知を集め協議することは如何であろうか?前稿でも記したが、歯科再生のためにも必要なことと思われ、この事業こそ歯科医学会が行うべきものと信じている。
◆ 第63回 田上順次(たがみ じゅんじ) 日本歯科医学会理事 /2020.12.07
1年前、武漢大学の招きで武漢にいました。接待は白酒を飲まされるだけなので固辞しました。これだけは参加してくれというので、夜間にクルーズ船で揚子江を遊覧しつつ、古き良き上海を舞台にしたミュージカルを鑑賞しました。船上からの両岸のライティングされたビル群の風景もなかなかのもので、毎日開催されていながら予約も簡単ではないというのも納得できました。
接待を受けるのも仕事のうち、やれやれと中国ではお決まりのマッサージに直行。私の担当の若い女性が頻繁にせき込んでいるのが少し気になりましたが、体はすっきり、翌朝帰国。クリスマスころに武漢で新型肺炎の第一報、正月明けから一気にニュースが拡大、その後の感染拡大はご承知の通り。報道では展示会のあった国際会議場にベッドが並び病院になっていました。
昨年12月に武漢のクルーズ船で観劇、正月に発熱、あと3か月ほどで定年退職の予定です。皆様とともに、無事でいられますように。
◆ 第62回 阿南 壽(あなん ひさし) 日本歯科医学会理事 /2020.11.16
医療機関における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応ガイドが日本環境感染学会より示されています。そのなかで、PPE(個人防護具)の適切な使用が重要であることが示唆されています。また、令和2年8月、日本歯科医師会より、「新たな感染症を踏まえた歯科診療の指針」が示されました。歯科診療では、スタンダードプリコーション(標準予防策)が徹底され、COVID-19の感染予防対策に努めていますので、安心して治療を受けて頂けることについて、さらに多くの国民の皆様に知って頂きたいところです。
さて、いつの時代においても、ホッと安堵する場所を持つことは、こころと体の健康に良いはずです。学業や仕事には目標設定が重要ですが、目標達成のために余裕がなくなり、真の仕事の喜びや人生の楽しさを見失っては本末転倒です。「令和」には、梅の花のように、日本人が明日への希望を咲かせる国でありますようにという願いが込められているそうです。新しい年が一息つける年となりますよう願うばかりです。
◆ 第61回 前田初彦(まえだ はつひこ) 日本歯科医学会理事 /2020.11.09
「天真に任す」曹洞宗の禅僧、良寛和尚の言葉です。「欲を離れて自然のままに身を任せる」という意味です。この言葉は「生涯懶立身 騰騰任天真 嚢中三升米 爐辺一束薪 誰問迷悟跡 何知名利塵 夜雨草庵裡 雙脚等間伸」で知られる詩の中の言葉で、「流れる水のように、空の雲のように、すべてのこだわりを捨て、ただ自然の道理に身を任せよう」ということです。
新型コロナ感染拡大により、教育現場も大きく揺れています。いつも心がけている「手をかけ、目をかけ、心をかけ」をアフターコロナの時代にどのように行うのか、変革の時期に来ていると思っています。ただ、先行きの見えないこの時期こそ、「元気よく、明るく、楽しく、」を掲げて、良寛和尚のごとくとは言わないまでも、せめて自然体で世情に振りまわされない生き方をこころざしたいものです。
◆ 第60回 近藤壽郎(こんどう としろう) 日本歯科医学会理事 /2020.11.02
この約10ヶ月間に起こったことは、刺激的でした。今までの価値観がまったく違うものに変化しました。こんなに楽しい経験は、いままで64年生きてきて初めてです。今までわれわれが積み上げてきたわずかなものは、その多くが消し飛んでゆきました。しかし、人と人との関わり方が変わったのはよいことだ、と言えます。相手のことを大切に思いやることを表すために、相手と直接会わないようにする。こんな逆説的な親愛表現は、過去にはあまりなかった、と思います。それでも必要とするコミニュケーションはテクノロジーの進化によって、いかようにもできることが証明されつつあるのです。コロナが去れば、昔にもどる部分もあるのでしょうが、もどす必要性はすべてにではないでしょう。戻そうという努力に意味があるのでしょうか、疑問です。なにがあろうと残るべきものは残っていく、と強く思います。以前よりもさらに厳然と屹立し続けていく大切なものこそがあり続けるのだと思います。その他のどうでもいいものは消えてなくなるのだから、快感です。世の中には、ごたいそうなものなどそんなにないということが、よくわかりました。たったひとりオフィスで、多くのひとに向かって話しをすることにも慣れました。不要に人と会うことも減りました。このあいだ、WEB飲み会に誘われてやってみたら楽しかった、オススメします。
◆ 第59回 野本たかと(のもと たかと) 日本歯科医学会理事 /2020.10.26
コロナ禍で始まった2020年度。各歯科大学で新入生のクラブ入部者は極めて少ないと聞いています。本学も115名中,たった3名。当然です。クラブ活動が禁止の状況では,入部しても楽しさを体験できません。クラブ勧誘もWeb説明会と電話だけの対応で,飲食を伴う勧誘は全面禁止です。部員を増やしたい在校生は,例年の食事を共にしながらあの手この手で口説くことができず歯がゆい状況が続いています。
クラブ活動には独特の上下関係,先輩との駆け引き,自身の先輩としての行動など講義では教えてくれない学びがたくさんあります。全てが勉強です。優しい先輩と思って入部したらとても厳しくて「騙された」と最初は感じた若者の気持ちが,いつしか「かけがえのない仲間に出会えた」と懐かしむ大人の思い出に変わります。多くの経験が歯科医師になった後で,患者さんやスタッフとの良好な関係を構築してくれることでしょう。
今年の新入生はどのような学生時代を過ごして,どのような歯科医師になるのでしょう。将来,コロナ世代などと呼ばれて,人との関係に苦労しないように学生時代だからこその学びができるよう見守りたいところです。
◆ 第58回 冨士谷盛興(ふじたに もりおき) 日本歯科医学会理事 /2020.10.23
コロナ禍を生き抜くには,時々刻々と変化する予想がつかない情勢に対応するため「自ら考え,創造する力」が求められています。東大物理学者の上田正仁先生によりますと,「問題を見つける力」「解く力」「諦めない人間力」の3つ力だそうです。
しかし,このようなことばかり考えていますと,息が詰まります。自ら考えて創造する力は学究の世界では重要ですが,日常生活のレベルではどうでしょうか。不必要とは言いませんが,常に独創的解決法を模索して時間をかけて諦めずに考え続ける必要があるでしょうか。既存の答えが先人たちの成果としてあるのなら,マニュアル的思考でも構わないと思います。それよりも,目前の課題をしっかり分析して解決することの方が多いのではないかと思います。
この難しい時期をストレスなく乗り切るには,このような言わば「クリティカルシンキング」と「ロジカルシンキング」を上手に使い分けることが大事なのかもしれません。
◆ 第57回 早川 徹(はやかわ とおる) 日本歯科医学会理事 /2020.10.19
この4月から日本歯科理工学会の理事長を拝命致しました.理事長になったら名刺がいるだろうとワクワクしながらデザインを考えておりましたが,このコロナ禍で結局名刺を使う機会がなく,折角のニューデザインも今の所お蔵入りです.是非とも,来年はお披露目できる様になって欲しいものです.
さて,日本歯科医学会から「四百字の唄」で好きな事を書いてくれと言われ,はたと困りました.好きな事と言われると,優柔不断な性格が災いして,却って筆が進まない(それほどの者でもありませんが).いろいろ考えたあげく,やはり自分の専門領域の事にします.工学系大学院を修了してから今まで,歯科材料の研究・教育に従事してきました.その中で何時も思うことは,“歯科材料は凄い!”.熱もかけずに水があるのに数秒で固まったり,どんな材料でもくっついたり,ミクロン単位で勝負したり.自分でも“凄い”を作ってみたいと思いつつ,いつの間にかこの年齢になってしまいました.何とか,在任中に“凄い”に少しでも関わりたいと思っていますが,果たしてどうなるでしょうか?
◆ 第56回 宮崎真至(みやざき まさし) 日本歯科医学会理事 /2020.10.12
これまで,英文の歯科関連書籍を翻訳するという機会を何度かいただいたことがあります。自分が考える翻訳の目標としては,著者の言わんとすることを代弁するとともに日本語として適切な文章を作り上げることです。しかし,これがかなり難しい。英文を読み,これを理解して翻訳したつもりでも,訳文を読み返してみると読みにくい文章になっているのです。普段,自分で論文を書く際には感じたことのないハードルが出現するのが,翻訳という作業といえるかもしれません。そんな時,翻訳の難しさは,言語が異なることによる表現法の違いだけなのではないと感じたものです。
さて,ここで考えたいことは「理解する」,「分かる」そして「共感する」というそれぞれの言葉のもつ意味です。「理解する」と「分かる」とはほぼ同じ意味をもとっていると思います。これに対して,「共感」と「理解」の違いは,前者が感性的なものであるのに対して,後者は論理的に判断することにあるとされています。言葉を換えれば,認識のレベルの違いと捉えることができるかもしれません。そのように考えると,他者の文章あるいは意見など,その捉え方に関しての自分自身の在り方によってどうにでも解釈が変わってしまう可能性があるということです。当たり前のようなことですが,自分自身で改めて留意したいと感じたものです。
◆ 第55回 松野智宣(まつの とものり) 日本歯科医学会理事 /2020.10.05
今回、「四百字の唄」は第55回目となる。そこで、55という数字に纏わることを並べてみる。55というと、どうしても私はコント55号と背番号55 ゴジラこと松井秀喜を思い浮かべてしまう。原子番号55はセシウム(Cs)、国際電話番号55はブラジル、第55代横綱は北の湖、国道55号は徳島市から高知市を結ぶ。
昭和55年(1980年)は40年前。私は17歳。山口百恵が引退し、松田聖子がデビューした。モスクワオリンピックのボイコット、王 貞治が引退し、松坂世代が生まれた。「それなりに写ります」や「少し愛して、なが~く愛して」などがブラウン管から流れ、オリコン1位は「ダンシング・オールナイト」。12月、ジョンレノンが40歳で亡くなり、Led Zeppelinも解散した。
ちなみに、歌川広重の『東海道五十三次』は宿場の数が53であるが、日本橋と京都が加わるので55枚からなっている。
最後に、東京ドームで声高らかに 『GO GO ジャイアンツ』を歌える日が早く来ることを願うばかりである。
◆ 第54回 牧 憲司(まき けんし) 日本歯科医学会常任理事 / 2020.09.28
今年度から日本歯科医学会常任理事を拝命しました九州歯科大学の牧 憲司です。任期中、何卒よろしくお願いいたします。本年6月から日本小児歯科学会理事長に就任、コロナ渦での学会の舵取りに苦心しているところです。このような状況下ですが、学会が少しでも多く前へ進めますように全力で努めます。
私は、九州歯科大学を卒業後、母校の小児歯科学講座に入局、2006年に教授に就任し、現在に至っております。私の好きな言葉は、「人間至るところ青山有り」です。これは、人間はどこにでも骨を埋める場所(青山)ぐらいはあり、故郷ばかりが墓所ではないことをいいます。人間は大志を抱き、故郷を出て大いに活躍せよという教訓です。江戸末期の僧、月性(げっしょう)が作った七言絶句のひとつです。私の医局の若い先生方や学生にも就職や卒業式などの門出の時に、この言葉を贈っています。将来に向けて大きな可能性を秘める若者の志を高めたい思いからです。
季節も変わり、秋になり気候が変わりやすい時期です。先生方のご健勝を心より祈念いたします。
◆ 第53回 渋谷 鑛(しぶたに こう) 日本歯科医学会理事 / 2020.05.01
人類の歴史は、はやり病(疫病、感染症、伝染病)との戦いである。ここ数か月の日本、いや地球上での最大の関心事は新型コロナウイルス(武漢カゼ)一色である。昔から、はやり病は記録されている。江戸時代、はやり病(天然痘、麻疹、コレラ、チフスなど)が発生すると、病にかかった者は床につき医者や祈祷師をよび恢復を願い、まだかかっていない者は人込みを避けて家にひきこもり、良いといわれる養生を守ったといわれる。町は静まりかえり、盛り場は、はやり病が始まると閑古鳥がなき、日銭で稼いでいた人たちはその日の暮らしにも差し支えるようになったという。まさに、近代国家ではソーシャルディスタンスを保ち、政府の緊急事態宣言と経済援助の実施と同じなのかもしれない。ウイルスの存在を知らない時代でも「うつる病」への対応策は経験値として実践されていたようである。
21世紀になった今も、はやり病への対応は変わらない。ウイルスもそれなりに生き残りをかけているが、人は、はやり病の恐怖から解放されるように全英知をかけてこれに勝利しなければならない。天然痘が1500年かけて根絶できたように。それが社会観や価値観の転換期にもなる。
◆ 第52回 浅海淳一(あさうみ じゅんいち) 日本歯科医学会理事 / 2020.04.24
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で世界中が揺れています。日本は発生元が中国であったことから韓国に次いで3番目に感染増加が進み、その後は他国ほどの極端な対策を取っていないにもかかわらず、緩やかな感染拡大と低い死亡率で推移していました。しかしながら、4月に入って増加の一途をたどり、4月16日夜には全国対象に5月6日までの期間、非常事態宣言が出されるに至っています。日本国民は日ごろから他人を思いやり、周りに迷惑をかけないことを普通に実践しています。手洗いやうがい、マスク着用など今回に限らず行っています。国民皆保険でほぼすべての人が高い水準の治療を受けることができます。さらに周りを海に囲まれた地の利等もあります。このような日本の特性を生かして日本国民の誇りと道徳観をもって、今回の騒ぎにも冷静の対処し、克服して行けるものと信じています。4月24日社会の平常化を祈って。
◆ 第51回 尾﨑哲則(おざき てつのり) 日本歯科医学会理事 / 2020.04.15
青丹よし寧楽(なら)の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり<小野老・万葉集巻三・328> 多くの方も良くご存知の歌です。新緑の奈良が浮かんでくる歌ですね。今年は、奈良での学会開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症のため残念ながら現地での行事は、中止となりました。
奈良は、私が高校時代に休みごとに訪ねた場所です。奈良市内のみならず、斑鳩・飛鳥・山之辺と奈良盆地を隈なく歩き回っていました。高校の先輩には、当時、新発見でした高松塚古墳の発掘作業をしていた方もおり、現場にもお邪魔しました。また、大学受験は史学科が第一希望でした。そして、一度は、ある大学の文学部歴史地理学科へ入学し、通学もしました。その後、縁があって、歯学部へ再入学しました。今でも、事あるごとに、奈良に留まらず全国の歴史探訪はやみませんが、今年は自粛中です。
この知識は、全国を隈なく捉えるような全国調査をしているとき、地名で地域がある程度分かるという意味で有効に活用できているのではと、思っています。
◆ 第50回 飯島毅彦(いいじま たけひこ) 日本歯科医学会理事 / 2020.04.08
新型コロナウィルスの感染の拡大により3月25日午後8時に小池東京都知事が記者会見を行いました。その数日前までは、日本の感染数が諸外国と比較して少ないために、日本では感染の広がりを良く抑えられていると考えられていました。日本人は真面目で良く言うことを聞いて自粛しているからだと多くの人が思っていました。日本人は素晴らしい。確かに日本人の多くは言わなくとも節度ある行動をとる特性があります。その反面、言われたことは守るが自主的に行動できない傾向もあります。その後、東京都でオーバーシュートの懸念が出て週末の外出「自粛」となりました。息子が滞在中のウィーンからこの騒ぎの直前に急遽帰国しましたが、ウィーンでは外出すると罰金だそうで誰も外出していないと言っていました。欧州ではyesかnoかだけです。おそらく、日本以外では「自粛」という曖昧な言葉は通用しないでしょう。日本人ならではの常識と自主的な節度ある行動でこの感染症に勝てるか、この文章が表に出る時には結論が出ているでしょうか?(2020年3月30日)
◆ 第49回 今里 聡(いまざと さとし) 日本歯科医学会理事 / 2020.03.31
この季節になると、旅立つ人や新しい人生をスタートさせる人にどんな言葉をかけようかと思いを巡らす。英国の文学者サミュエル・ジョンソンが言ったように、「言葉は思考の衣装」であり、ふとしたフレーズが思いがけず人の心を打つこともあるからだ。SNSでは擬態語や絵文字が飛び交う今日この頃であるが、人と人が向き合うためには、やはり言葉を大切にしたいと思う。そんなことを考えていると、いつも頭に浮かんでくるのは、終戦直後の日本の混乱期において、吉田茂の側近として活躍した白洲次郎の名言「No Substituteをめざせ」である。官僚や実業家として戦後の日本を支え、大の車好きのジェントルマンであった彼が、晩年、2代目トヨタ・ソアラの開発に際して、開発責任者に告げた言葉としてよく知られている。ブレない人生を歩み、武勇のエピソードには事欠かない白洲らしい強い意志を持ったフレーズであるが、これはどんな境遇、年代の人にも通用すると思う。代用がきかない唯一無二のものであろうとすることは、自らを高みに上げ、困難な壁を超えていくひとつの方策と言える。時は新型コロナウイルスのパンデミックで世界中が大騒ぎになっているが、それぞれが前向きにNo Substituteを目指す、そんな明るい未来を信じたい。
◆ 第48回 森山啓司(もりやま けいじ) 日本歯科医学会理事 / 2020.02.03
新年を迎えると、大学では入試や国家試験、そして卒業や学位授与のシーズンへと一気に突入していきます。優秀な学生をリクルートし、また、将来の歯科医学、歯科医療の担い手を世に送り出すために気の抜けない日々が続きます。
孔子の弟子である曾参が執筆し、南宋の朱熹が儒教の経典「四書」の一つとして編纂した、『大学』の三綱領を紐解きますと、「大学の道は、明徳を明らかにするに在り、民を新たにするに在り、至善に止まるに在り」と述べられています。君子の道のなんたるかを、当時の学生たちは徹底的に叩き込まれたのでしょう。翻って、科学・医療が革新的進歩を遂げる現代においては、研究者・医療者の精神的支柱となる普遍的価値観の醸成を、高等教育がいかに担うべきかについて考えさせられます。
第4次産業革命とも言われるこの時代。歯科の未来を切り拓く令和世代の学生たちには、最先端テクノロジーの習得はいうまでもなく、物事の真理探究に欠かせない人文・社会学的基礎を養う姿勢が今まで以上に求められるのかもしれません。
◆ 第47回 佐藤真奈美(さとう まなみ) 日本歯科医学会理事 / 2020.01.20
毎年恒例元旦のウィーン・フィルニューイヤーコンサート、ご覧になった方も多いと思う。圧倒的だったのは指揮者アンドリス・ネルソンス氏。オーディエンスが曲と共に揺れている?と錯覚するほど彼から発する表現力が豊かで大胆。ピアニシモは指で指揮し、ある時は自らコルネットを奏で、観ていて判りやすく楽しかった。そういえば他の番組で、途中からピアノを演奏する指揮者を観たことがある。これは音楽界での所謂「多様化」なのだろうか?「平成は人々の生活様式や価値観が多様化した時代とも言えると思います」は、天皇になられる前の皇太子様のお言葉である。「多様化」とは精神や生き方、状況の在り方や価値観を互いに受容することだとすれば、そこにアイディアを加えると新たな発想にも繋がるという見方ができる。ならば、歯科界での昨今、「多様化」する女性歯科医師の働き方、在り方に上乗せする新たなアイディアはないか?など思い巡らせながらのウィーン・フィルニューイヤー2020だった。本年もよろしくお願い申し上げます。
◆ 第46回 大川周治(おおかわ しゅうじ) 日本歯科医学会理事 / 2020.01.10
厚生労働省は「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」を2018年5月15日に立ち上げ、現在までに8回開催しています。第8回の報告書(案)は、第1回から第7回までの議論の総括としてまとめられています。本件は、歯科界の根幹を揺るがす重要かつ難しい問題の一つであり、歯科医師自身が真剣に取り組まなければ、改善に向かう可能性はないといっても過言ではありません。この問題はすでに周知の事実とは存じますが、厚生労働省がHPにアップしている前述の報告書(案)を是非ご一読いただきたいと思います。私がこの問題に気づいたのは20年前のことです。当時、近隣の歯科技工士学校卒業生の離職率がすでに90%を超えており、近い将来、歯科界にとって厳しい時代がやってくることを予見しましたが、何も打つ手立てがなく、今日を迎えてしまいました。
歯科技工士の認知度低下、歯科技工士を志望する若年者数の減少、学生募集停止による養成施設の減少、歯科技工士数(特に20代、30代)の減少、労働環境に起因する高い離職率等々、課題は山積しています。まずは、各先生方にこの問題をしっかりと受け止めていただきますよう切にお願い申し上げます。
◆ 第45回 尾松素樹(おまつ もとき) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.12.18
私は、巨人、大鵬、卵焼き時代の大のジャイアンツファンである。出身地の滋賀県大津市は、ジャイアンツが全国区であってもタイガースファンには数では負ける。小学生の時の甲子園での巨人―阪神戦ナイターの初観戦は、今でも鮮烈に覚えている。うれしくてジャイアンツの帽子をかぶって行くと、連れて行ってもらった知り合いの方に帽子は取るように言われた。その理由は、関西のタイガースファンを知るようになって理解できた。
そして、ジャイアンツ戦が観たいためではないが、東京歯科大学に入学し、大学のすぐそばの後楽園球場、ドーム球場で野球観戦を楽しませてもらった。
大学を退職し地元で診療するようになってからは、東京へは足が遠のいたが、日本歯科医師会の会誌編集委員となって、日歯会館へ行く機会が増え、委員会のついでにしばしば球場に足を運ぶことができた。楽天との日本シリーズや交流戦での当時の大谷翔平選手の最速163キロも観戦できた。
今年度から日歯の常務理事、医学会の常任理事に就任し、東京へ行く機会が更に増えるので、東京への往復の生活に慣れたら観に行こうと考えていたが、それは全く考えが甘かった。地方から通うものにとっては、日歯と医学会のスケジュールはとてつもなくハードである。さらに、2021年の第24回日本歯科医学会学術大会の準備委員会にも参加しなくてはならいので、今のところ野球どころではない状態である。
TM先生、今年の日本シリーズは残念でしたが、ペナントは奪回ということで良しとして、G戦、観に行きましょう。
◆ 第44回 宮﨑 隆(みやざき たかし) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.12.10
令和元年を迎え新しい時代への期待が大きい中で、本年も台風や大雨による被害が続きました。一方で国内外からの賓客が参列して厳粛に行われた天皇即位の礼、さらに国民祭典や翌日のパレードでは改めて新しい時代の息吹を感じました。さらに、スポーツではラグビーワールドカップを始め各種競技で日本中が盛り上がり、来年のオリンピック・パラリンピックが楽しみになっています。しかし日本の国力は超高齢社会の到来で傾いており、2040年問題への解決を総力で図らないといけません。歯科医療には今まで以上の社会貢献が期待されています。今こそ社会へのポジティブな働きかけが必要であり、歯科医学会が牽引していかなければなりません。住友会長から新しいキャッチフレーズとして「オーラルハビル」が提案されました。私は非常に共鳴を覚えました。教育、研修、診療の中に幹としてハビルを入れていきましょう。歯科界が社会を明るくする新しい運動の始まりです。
◆ 第43回 村上伸也(むらかみ しんや) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.12.02
組織が高い目標を達成しようとするとき、強い「リーダーシップ」が求められますが、そもそもリーダーシップ定義はどのようになされているのでしょうか?検索エンジン等を使って調べてみると、「組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立すること」や「ビジョンを明確にして目標達成へと導く力」など、驚くほど沢山の定義が出てきます。30代の頃、このことにいろんな思いや考えを巡らせていたときに、若い学生達に向けて発せられたリーダーシップの定義を、家内が教えてくれました。曰く「口頭で自分の意志を伝え、その意志を仲間に納得させる能力」というものでした。当時の私にとって腑に落ちる定義でしたが、最終的に聞き手を納得させられるかどうかについては、技術的な側面だけではなく、その人物がいかにその集団で信頼されているかが大切な要点となりそうに思われます。あの時から、数十年が経過し、果たして今の私にその能力が身についているのか、この拙文を書かせていただく機会を得て、改めて自問しています。
◆ 第42回 河野文昭(かわの ふみあき) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.11.25
巷ではマンホールの蓋が密かなブームになっている。8年前,偶然,広島駅前で広島東洋カープのカープ坊やのマンホールを見つけ,そのデザインの素晴らしさ惹かれた。以来,出張先ではマンホールを写真に収めるため,町の散策を開始した。地域色豊かな図柄のマンホールに出会うことができ,出張の楽しみが一つ増えた。札幌市は時計台,仙台は楽天イーグルス,神戸市は異人館,岡山市は桃太郎,先日行った平塚は箱根マラソン。
さて,大学を卒業して今年で36年目を迎えた。日常の教育・診療の中で,つい同じ視点で物事を見るようになっていることに気づく。普段,何気なく見ているマンホールにも,すこし注意を払うだけで,そこに新しい発見がある。いろいろな視点で現状を見つめる態度が新たなものを生み出す原点になるはずである。あと少しの間だけ,いろいろな視点から歯学教育を見ていきたい。
話は元に戻るが,一度,ご当地マンホールを探してみては。旅の思い出が一つ増えること間違いなし。
◆ 第41回 木本茂成(きもと しげなり) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.11.18
この秋6週間におよぶ熱戦を繰り広げたラグビーワールドカップが終了した。日本代表チームの奮闘と快進撃は日本国中を熱狂させ、私自身もにわかラグビーファンの1人となって週末のテレビ観戦を楽しんだ。出身国が7カ国にもおよぶ日本代表選手がワンチームとして連携のとれたプレーを見せてくれたことや、海外チームが試合後に見せた観客への感謝を示す日本スタイルのお辞儀は、日本人として何か誇らしい気分にさせてくれた。ラグビーのノーサイドの精神は「礼に始まり礼に終わる」日本の武道と相通ずるものがあり、日本人の国民性ともうまくマッチしたのではないかと思う。一方、ここにきて競技会場の変更で物議を醸している東京オリンピックであるが、来年は開催国として日本の文化や国民性を再度世界に示す絶好の機会となるであろう。幼い頃に見た東京オリンピック開会式当日の抜けるよう青空をバックに翻る日の丸を思い出す今日この頃である。
◆ 第40回 佐藤裕二(さとう ゆうじ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.11.11
90歳の方で,ドライバーで150ヤードしか飛ばなくなった方に「あなたは飛距離が落ちているので,筋トレ,ジョギング,練習場通い,コーチのレッスンをもっとしないとだめですよ。」といった指導が適切でしょうか?
「90歳で150ヤード飛ぶのは素晴らしいです。ただ,ドライバーをシニア用に変えるともっといいかもしれませんね」といった指導の方がよくないですか?
昨年4月から保険導入された「口腔機能低下症」でも,90歳以上の方はほとんどが該当してしまいます。「あなたは,お口の機能7つのうち6つがが下がっています。よほど頑張らないと危ないですよ。」などといった「だめだし」をされると,へこみます。
「90歳のあなたは,お口の年齢は87歳ですから,すばらしいです。ただし,舌の力は95歳相当ですから,ちょっと鍛えた方が良いですね。ぜひお口を若返らせましょう。」
このような「ほめる指導」につながる「口腔機能年齢」を試行中です。
◆ 第39回 小林隆太郎(こばやし りゅうたろう) 日本歯科医学会総務理事 / 2019.11.05
私には「ストレス」がない、ないというより自分の辞書から削除した。この都合のいい言葉が嫌いだったからだ。その代わりに「修行」としてみた、かなり気分がいい。
もう一つの嫌いな言葉、「お疲れ様」、朝から言われる。一体どうなっているのかと思う。
ところで、なぜ、「がん」になるのか?
家族、親友、知人ががんで亡くなっていく、芸能人、有名人のがんのニュースが社会の縮図であろう。10年ほど前からその原因について個人的に勉強を始めた。ほとんどのがんにおいて原因不明とする西洋医学では、がんを治そう(抑制)とするが予防はできない。体を悪くしていく要素を細かく調べていった。食べ物から環境までいろいろな毒があった。「社会毒」である。この年までがんにならないほうが不思議なぐらいだった。よくぞここまで頑張ってくれた自分の体に感謝した。そして体に恩返しを始めた。
今年から、なんとその内容を含め授業で学生に話せることになった。「歯科」それは「食」を抜きに語れる学問ではないはず、一番やりたかったことのスタートである。
◆ 第38回 古郷幹彦(こごう みきひこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.10.21
我が国の超高齢化社会化を心配する話が大きくとり上げられていますが、言い方を変えて超長寿社会の到来という見方ができます。これは世界に誇れる健康社会を成し遂げた我が国の医療の進歩の結果であり、医療人にとっては大きく胸を張れることです。しかし医科歯科連携が注目されるようになり、これからの科学の進歩を長寿社会の口腔医療にどのように具現化するかは歯科医学の大きな責務となりました。口腔機能低下症や口腔機能発達不全症という新病名が採用されましたが、これからの国民医療に必要なものはたくさん出てくると思います。医療安全、働き方改革、専門医制度改革など現在の取り組むべきキーワードが次の時代にどうかわるかは予想困難かもしれませんが、楽しみでもあります。時代の変化に応じて口腔の健康の維持・管理ができる多くの優秀な歯科医師を輩出することが重要となっています。大事なことは、「歯科医学全員野球で口腔医療を次のステップへ」、令和の口腔医療・歯科医学の幕開けです。
◆ 第37回 弘中祥司(ひろなか しょうじ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.10.15
令和元年10月1日、消費税が10%へ増税された。増税直前に大量購入する駈込み客が巷に溢れている報道が多く見られた。そういえば、いつから消費税は導入されたのだろうか。調べると、消費税は平成の幕開けと共に開始された事が記載されていた。竹下登総理大臣の時からで、当時の税率は3%だった。
消費税といえば、小銭との格闘が思い出される。5%だった時は良かったのだが、3%と8%の時は小銭入れに、行くあての無い1円玉たちが溢れ返っていて困ったものだった。長蛇の列のレジで冷や汗をかきながら、一生懸命に1円玉を探していた事も、今や電子マネーの時代。1円玉に頭を悩まされることもなくなった。
歯科治療費はもちろん10%ですが、割とよく利用するコンビニ弁当は軽減税率で8%じゃないですか。ほう、屋台で食事すると軽減税率で8%なのですね。まだまだ1円玉も、使い道がありそうではないですか。いま少し財布に入れておくとしましょう。
◆ 第36回 中村雅典(なかむら まさのり) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.10.07
約4億5千年前に最古の脊椎動物が海の中に出現した。それまで原口として消化管の出入り口は1つであったものが、脊椎動物の出現で始めて口と肛門が分かれ、原口が肛門となった。それゆえ、我々脊椎動物は新口動物と呼ばれる。最初の脊椎動物である円口類は顎がない。次の魚類で顎骨が形成され、その後の上陸に伴い、呼吸のために必要であった鰓弓筋が舌へと変化した。口が形成されることに伴い、視覚、味覚等の感覚器が顔面に集中し、獲物を感知する機能と速やかな捕食を営むために中枢神経系が発達した。口は長い年月を経て、今のような構造と機能を獲得した。私たちは口を栄養補給の入り口としてだけでなく、愛情表現や情報交換の道具としても使用している。口は生命進化の流れの中では最も新しい器官と言えるが、この口の出現によって、様々な器官系が発達してきた。故に、口腔領域の研究と臨床には他領域との間に相同性と特異性がある。
◆ 第35回 神田晋爾(かんだ しんじ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.09.30
福岡市は、近畿地方以西の西日本では2番目の約159万人を擁する市で、福岡県の県庁所在地であり、政令指定都市である。西には、玄界灘、東には脊振山と、海にも山にと、自然に恵まれた素敵な大都市である。この豊かな自然の中、私の趣味は釣りである(最近はなかなか行く暇が取れないが)。玄界灘では、鯛、平目、あら(クエ)、イカ、ヒラマサ、ぶり、季節を通じて様々な魚とお目にかかり、美味を食せる。さて、昨今、歯科・口腔は、非常に注目されだした。永年に渡る学会での研究、研鑽による実績がエビデンスの基となり、全身といかに密接な関わりがあるかという事がやっと実を結び始めている。我々はその実績を生かさなければならない。生涯を通じての口腔の健康の維持、つまり管理型の医療体系を構築し、口腔管理することが非常に重要である。また、国民にさらにその知識と情報を伝えなければならない。学会で培われたエビデンスを基に国民の健康の維持と健康寿命の延伸という大きな鯛を是非とも釣り上げたいものである。
◆ 第34回 山下喜久(やました よしひさ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.09.24
先日福岡市で開催された、地元出身の写真家石川賢治氏の「宙(そら)の月光浴」と題した作品展を訪れた。暗闇の時と思い込んでいた日没の後も、月光の柔らかな明かりが地球上の様々な場で無限の命を優しく包んでいることを改めて気づかされた。昼間の眩い陽射しには比べようもない儚さである。しかし、地球上の数多くの命の営みにはその微弱な月明かりに生かされているものも少なくないことに思いを馳せると、常日頃のものの見方は豪華さや煌びやかさに目を奪われた短絡的なものに感じる。
これを健康に置き換えてみると、痛みや不快から我々を解放させてくれる「医療」は陽の光であり、変化を感じさせない地道な「保健」は慎ましやかな月光浴のようである。陽の光は鮮烈で我々はその強さに惹かれるが、時にその強い日差しは我々を焦がしかねない。写真展の月光浴の世界に触れ、奥深く和やかな月影も陽光に劣らず命の営みに不可欠なものと思われた。
◆ 第33回 石井信之(いしい のぶゆき) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.09.09
ルールの範囲ではプレー内容を一切咎めないラグビーに高校大学を通じて没頭した。当時、過酷な夏合宿を乗り越えれば全ての困難を乗り越えられるとの誤った自信が芽生えたが、人生そんなに甘くない。コンタクトプレーが必須のラグビーでは、対戦相手との体力差は戦術的工夫が必須である。2015年Rugby World Cup (RWC)、日本代表は体力で圧倒的劣勢と予想される優勝候補の南アフリカに戦術に磨きをかけ大金星を挙げ、2019年RWCを日本で開催する運びとなった。花園ラグビー場で日本代表とウエールズ戦を観戦し、世界との実力差を目の当たりにしてから44年、日本ラグビーは国際交流を重ね世界と互角に戦うまでに成長した。日本の歯科医学も国際的人材交流を重ね、今日まで飛躍的に成長した。しかしながら、歯科医学界もラグビー協会も優秀な次世代を担う人材養成は待ったなしの状況だ。積極的な国内外の人材交流をすすめ、日本社会に不可欠な歯科医学が展開できる戦術を創出したい。
◆ 第32回 川口陽子(かわぐち ようこ) 日本歯科医学会副会長 / 2019.09.02
歯科医師は「歯周病が糖尿病などの全身疾患に影響する」ことを、「口腔の健康」と「全身の健康」という言葉で説明する。しかし、これは医師には不思議に思えるらしい。以前、医科の研究班に参加して「Oral healthとGeneral healthの関連をみたい」と私が話したとき、「General healthとは何ですか」と医師に質問されて驚いた経験がある。確かに、医師は「全身の健康」とは言わない。また、臓器・部位別に分けた「目の健康」「耳の健康」「鼻の健康」という言葉も存在しない。「口腔の健康と全身の健康」は歯科の視点からみた言葉である。
歯科医師は口腔内の疾病を、医師は口腔以外の領域の疾病(全身疾患)を治療するが、健康を考える際には、口腔と全身を分けずにWHOの定義にあるように統合してとらえるべきである。今後、医科と連携してエビデンスを蓄積し、歯科医師だけでなく医師も「健康の維持増進には、口腔疾患の治療や予防(口腔の健康)が重要である」と発信していくことが必要だと思う。
◆ 第31回 松村英雄(まつむら ひでお) 日本歯科医学会副会長 / 2019.08.26
昨年(2018)の日本歯科技工学会学術大会(江戸川区)で「オリンピックと歯科技工」と題するシンポジウムを企画し、演者の一人に1972ミュンヘン五輪代表の岡本秀雄氏を招聘した。岡本氏は東京トヨペット在職中に同五輪のボートシングルスカル代表として出場したが、後に歯科技工士の資格を取得している。当日、岡本氏が事前仕込みの業界ギャグを披露した。自己紹介:クラウンを「売る」からクラウンを「つくる」に転身した岡本です!その一言が聴衆にかなりウケて、ご本人も「帰ったら、ワックスアップしてクラウンのミニカーをつくる予定です」と、ベテランとしての並々ならぬ意欲を示された。
来年の2020東京五輪は、海の森ボートを含め、湾岸の江東区で多くの競技が開催される。会期中の歯科医療については、江東間合意(深川-城東)でガッチリ噛み合った江東区歯科医師会の諸先生もおおいに活躍されるものと予想している。
◆ 第30回 森田 学(もりた まなぶ) 日本歯科医学会常任理事 / 2019.01.18
平成が終わる。私の平成は、新米の歯科医師から始まり、拡大鏡無しでは何も治療できなくなるまでの時代、そして大学人として一気に駆け抜けた30年である。偶然にも平成という時代が一つのパッケージとなって自分の歴史を埋めている。このヒストリーを西暦で物語るのはいかにも味気ない。自国独自の物差しで思い出を記憶できる日本文化が誇らしい。新たな年号になり、どのような波風が歯科界を悩まし、育むのだろうか。ローマ軍の執政官スキピオは、長年の敵対国カルタゴの市街が燃き尽くされる光景を見て、流れる涙をぬぐおうともせず、呆然とたたずんでいたという。「わが国もいつか同じ運命が訪れるかもしれない」と、祖国の華やかな栄光の裏に潜む落日の光景を想像して泣いた。年号が変わることで、希望と夢が先走るのは仕方ないにしても、常に危機感をもっておくのは必要ではなかろうか。事実、このような執政官を生んだローマ帝国は、その後600年も続いたのである。
◆ 第29回 栗原 英見(くりはら ひでみ) 日本歯科医学会常任理事 / 2018.05.01
エンジェルスの大谷翔平選手の活躍が目覚ましい。一昨年、広島カープと日本ハムとの日本シリーズでも大谷選手は大活躍した。特に印象に残っているのは、日本一を決めた試合で内角低めの難しいボールを、腕をたたんで見事にヒットにした時。セベリアーノ投手からの第4号も素晴らしかった。160キロ越えの投球をした2日後にホームランをカッ飛ばす!この活躍で大谷選手の成長の過程を改めてマスコミが取り上げている。その中でも花巻東高校時代に書いたという81マスの目標達成表は興味深い。“運”というものまである!“運”の要素として、「あいさつ」、「ゴミ拾い」、「部屋そうじ」、「道具を大切に使う」、「審判さんへの態度」、「プラス思考」、「応援される人間になる」、「本を読む」が挙げられている。経営セミナーの講師でも食べて行けそうな出来栄えである。当時の大谷選手の表のど真ん中は「ドラフト1位指名、8球団以上」だ。ど真ん中に、「歯科医療の発展」と入れたら、どのような要素が並ぶのだろうか?「運」も入れますか?!
◆ 第28回 関本 恒夫(せきもと つねお) 日本歯科医学会常任理事 / 2017.10.11
今夏は私にとって歯学医学教育漬けであった。日本歯科医学教育学会から始まり、8月には日本医学教育学会(札幌)、東南アジア歯学教育学会(台北)、欧州歯科医学教育学会(リトアニア)と毎週教育学会に参加した。教育環境は国や地域によって異なるが、気になったのは国家試験というキーワードが出てくるのは日本の歯学教育だけであったことである。日本の医学部を含めて海外の歯学教育の中心はプロフェッショナリズムや質保証のための方略が中心であった。もちろん日本の歯学教育でも同様の議論は多く行われているが、国家試験の縛りによってその方略が狭められているように感じる。国家試験の合格率を上げる教育と本来の質の向上のための教育に齟齬を感じている教員は少なくないと思う。最近、成績は優秀だが行動に問題がある学生(豊田真由子風?)も各大学で見られるという。本来の歯学教育の目的は何なのか、国を挙げて考えないと国際社会からおいていかれる。
◆ 第27回 古郷 幹彦(こごう みきひこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2017.09.26
何やら外国の政情が不安定なキナ臭い感がするようになってきてしまっている中で、我が国の医療も人口バランスが変動し、これまでとは大きく変わろうとしている。大学に属する私は若い世代の人口減少の中で優秀な次世代を担う人材を見出し育てる責務が心に重くのしかかる今日この頃。我が国の歯科医療ことに専門とする口腔外科の将来に自らの夢を重ねる。長くない定年までの年月で今の臨床をどこまで突き詰められるか。この立場になって次世代をどこまで引っ張っていけるか自分に勝負をかけているような気がする。
グローバルにトークができるようになった時代、昔と比べて人々の活動範囲が極端に広くなった。人がこれだけ日々移動するので患者も動く、疾患も動く。社会の拡大に負けてはいられない。歯科医療 これからどういう展開を見せるのか楽しみではあるが、見ているだけではなく積極的に社会を動かせるよう、誰もが納得できるように頑張りましょう。
◆ 第26回 西原 達次(にしはら たつじ) 日本歯科医学会常任理事 / 2017.09.01
出雲大社(いづもおおやしろ)を参拝するために、出雲縁結び空港に降り立ちますと、「運は一瞬、縁は一生」という言葉が目に飛び込んできます。この「縁」という言葉は、我々の生活のなかでは、様々な意味で捉えられています。今回、「四百字の唄」という洒落た粋な趣のある原稿を依頼されたのも何かの縁と嬉しく感じています。
私の歯科基礎医学(オーラルバイオサイエンス)研究者人生も縁なくして語れません。歯学部に入学し、卒業後、臨床系大学院に在籍し、多くの出会いを通じて基礎研究に邁進することができました。教授就任後は教育と基礎・応用研究、そして、今や研究を通じて社会に貢献するという観点で大学を運営する立場となりました。まさに、30余年に渡る学究生活は、「縁と浮世は末を待て」という言葉で結べるような気がします。あわせて、「人間万事塞翁が馬」、この言葉が人生の妙味を表しているのかもしれません。
◆ 第25回 木本 茂成(きもと しげなり) 日本歯科医学会常任理事 / 2016.11.01
最近"スマホ"を見ながら歩く人を見かけるのは珍しいことではなくなった。またその上、耳にはイヤホンを着けていることも日常よく目にすることである。一方、深夜にスマホの画面を凝視しながらゲームに興じ、公園を徘徊する集団のニュース映像は、スマホに操られたゾンビを連想させる光景である。そしてその間、誰一人として言葉を交わさない集団の光景を見て、背筋が寒くなる思いをしたのは私だけであろうか。
この20年でコミュニケーションツールの普及とともに、何時でも、どこにいても、リアルタイムで連絡をとり合えるようになったことは、世界を狭小化してきた。しかし、先に例を挙げたように、Face to Faceの人と人とをつなぐ生身のコミュニケーションは希薄となり、ついには医療系大学の授業においてもコミュニケーション学を教えなければならない時代となった。今更ながらにコミュニケーションの大切さを実感しているこの頃である。
◆ 第24回 山﨑 要一(やまさき よういち) 日本歯科医学会常任理事 / 2016.03.30
現役世界最強と言われる囲碁棋士を相手に、人工知能「アルファ碁」が対局開始からの3連勝を含む4勝1敗で勝利したニュースが流れた。囲碁については素人であるが、聞くところによると、計算力勝負のオセロやチェスでは20年前に人間が敗れたものの、難しい将棋よりさらに数兆倍複雑で直感の重要性が問われる囲碁の世界で、こんなにも早くコンピューターに敵わなくなる日が訪れるとは衝撃だった。
電子機器の超速的進歩に加え、ニューラルネットワークと学習機能を身につけた"脳"は、同じタイプの脳と無限の対局を繰り返し、人間より遥かに速く膨大な経験に基づいた"研鑽"を積み、"特殊な能力"に磨きをかけていったようである。
やがて人類を超えていくであろう人工知能を人間の良きパートナーとして役立てるためには、慈愛や共感などの人が備えるより深く繊細な心理面も併せて進化させる研究が必要となる。医療を担う人々がそのお手本となることを期待する。
◆ 第23回 栗田 賢一(くりた けんいち) 日本歯科医学会常任理事 / 2016.03.15
口腔外科を始めた頃、先輩から「抜歯で根を残したら下手だ。将来は感染する」と教育された。はじめは「そうか」と信じていた。ある時、レントゲン写真で無症状の骨に囲まれた歯根状の不透過物を見て「これは抜歯中止の残根ではないか?」と思い、患者さんに尋ねると「20年前に抜歯を受けたが、抜けなくて途中でやめた。」とのこと。こうした症例を複数経験した頃「歯は全部抜かなくてはいけないのか?」と思い始めたが、自分は下手だと認めることになるから、到底そんなことは言えない。下顎智歯が下歯槽管に絡んでいるような場合は、まるで爆弾処理班のようにハラハラドキドキして抜歯をしてきた。ところが2004年に米国で歯根を残す抜歯「コロネクトミー」の講演を聴いてから「根を残すことは間違いではない」と思い、帰国後すぐに始め350例に達した。術後3年目までは論文にしているが、長期的に大きな問題はない。歯科における迷信への挑戦は続く。
◆ 第22回 大浦 清 (おおうら きよし) 日本歯科医学会常任理事 / 2016.01.22
私の所属する歯科基礎医学会は2014年秋に一般社団法人化した。今年、日本歯科医学会も一般社団法人日本歯科医学会連合として日本歯科医師会と協議を進めて法人化に向かっている。日本歯科医学会に所属する21の専門分科会、22の認定分科会も法人化を進めている学会が増えてきている(専門分科会は21分科会の内すでに17分科会が法人化している)。これからの学会は同じ分野の仲間や親しい者が集まって任意団体として会を開催するだけではなく、歯科医学の情報を如何に発信していくか、社会(国民の健康と福祉)に対して如何に貢献していくのか、が問われている。治療に関しても、各治療ガイドラインの作成、高度先進医療など、科学的根拠に基づいた歯科医療(EBD:Evidence Based Dentistry)を実践していくために日本歯科医学会が中心となり、各学会のまとめ役としての役割を果たしていく必要がある。そのために住友会長をはじめ執行部は将来を見据えた有益な事業を行っていく責任がある。
◆ 第21回 山本 照子 (やまもと てるこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.12.25
私は本年7月に住友会長より日本歯科医学会常任理事のご指名を受けました。皆様ご承知のとおり、来年4月に学会は法人化の予定で進められております。少子高齢社会における歯科医療・歯科医学界の未来のことを考えて、向かうべき方向のひとつに、AMED(日本医療研究開発機構)やPMDA(医薬品医療機器総合機構)を積極的に活用し、知的財産を歯科界でも具体的に創造して行くことを目標の1つに掲げておられます住友会長の日本歯科医学会活動におきまして、微力ながら少しでもお役に立てるように誠心誠意努める所存です。どうぞ宜しくお願いいたします。
"サンタクロースが街にやって来る"を観ながら聞きながら、12月24日の夜にこの小文を書いています。サンタが幸せと一緒にやってくるのを子ども達が待ちながら、優しそうなテノール歌手を囲みながら楽しげに唱っています。大人は子ども達の幸せを誓うためにこの日があるのでしょうか。平和な平安な世界を創るために大人は何をするのがいいのでしょう。昨今、このような悩みを持つようになって参りました。
◆ 第20回 小林 隆太郎 (こばやし りゅうたろう) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.10.14
毎日のように顎矯正手術をしていた頃があった。よく聞く言葉で「大胆かつ繊細に」があるが、私には「丁寧かつ繊細」しかなかった。たぶん心配性からか・・・。目標は出血のない手術、いつしか下顎枝矢状分割法で100ml、50mlを切り20mlを切った。
また、その頃から続けている事がある。「痛くない局麻下での抜歯」。自分にノルマをかけ上手になろうとしていた。「麻酔も抜歯も全く痛くなくやりますよ。いやなことがあれば遠慮なく手を挙げて下さい。」から始まる。初めのころは10人中多くの人が手を挙げた。それから5人、そして誰も挙げなくなった。もしかしたら、患者さんが気を使ってくれているのかもしれないが。
授業や研修でこの事をたまに話す。すると本人含め、本当なのかと抜歯の依頼が来る、かなりの重圧。
昔、先輩が語っていた。口腔外科医、「抜歯に始まり抜歯に終わる」、「たかが抜歯されど抜歯」とやはりこれからも自分に納得いくよう丁寧かつ繊細でやっていこうと思う。
◆ 第19回 寺尾 隆治 (てらお たかはる) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.09.25
大学を卒業して37年目に突入した。これまでに何人の患者さんを診さしていただいたろうか。卒業当時は近隣に歯科医院が少なく、待合室は患者さんで溢れ返っていた。今では信じられない光景であった。父と二人で一日に百人を超える患者さんを診た日もあった。診療終了が夜の十時過ぎる事も稀では無かった。只々、主訴のみを治療する事の繰り返しだった様な気がする。そんな毎日に「俺の歯科医師人生、これで良いのか」との自問自答の繰り返しだった。ある時、一念発起して研修会に行く事を決意した。初めて参加した研修会で周りの先生のレベルの高さに圧倒され「これでは駄目だ。気合い入れて追いつけるよう頑張らなくては」と必死になり学生時代以上に努力し、幾つもの研修会に参加した事が懐かしい。どこまでスキルアップできたかは不明であるが、医療人として患者さんの苦しみと同じ目線で向き合う心構えを習得できた事が一番の収穫であり、財産となっている。
◆ 第18回 小林 慶太 (こばやし けいた) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.08.17
卒業間もない意気盛んな頃、患者さんが来ると要治療部位を見つければ、全て治せるつもりでいた。「適合の良い充填、歯周治療、噛める補綴をして口腔機能を回復すれば治る。」と思っていた。それも、いつしか疾病への対応から個への対応が臨床であると分かってくると、「無歯顎は不健康か?」という疑問が浮かんできた。「8020」が歯科的健康の指標であるならば、「無歯顎」は不健康となる。あるとき、哲学者ジョルジュ・カンギレム(Georges Canguilhem)の著書「正常と病理」で、その答えを見いだす事が出来た。そこには「血友病患者は、明らかに異常であるが、彼らは日常生活ではあまり困る事はない。しかし、外傷などで止血困難な状態、すなわち不都合が生じた時に病的状態となる。」と書かれていた。「無歯顎も不都合が無ければ不健康ではない。」ということである。医療を提供する者は、患者さんが痒いと思った時に、痒いところを掻いてあげることが大事なのかもしれない。
◆ 第17回 宮﨑 秀夫 (みやざき ひでお) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.08.04
1998年に、新潟市で70歳の600名を対象として、毎年、同時期に同じ調査項目を用いて80歳まで10年間のコホート研究を開始しました。口腔病態・機能検査に加え、採血、採尿を含む医科一般検査、主観健康・保健行動調査、食生活・栄養調査、運動機能測定など検査終了まで1人平均2.5時間を要すもので、高齢者にとっては凄くハードであったに違いありません。それでも、65%(390名)が80歳までの10年間参加なさいました。その成果は、「歯の健康力」として新健康フロンティア戦略の健康対策への導入に、また、口腔保健の世界戦略としてWHOへの政策提言に役立っています。
一刻も早い開業医の道を目論んでいた私を、空手道部の卒業生というだけで顧問の教授に引きずり込まれた所が口腔衛生学教室でした。よくある話ですね。以来37年間、歯学研究者の末席を汚してまいりました。最初は、これも何かの「ご縁」で始まりましたが、疫学研究は信頼できる多くの仲間を必要とする中、節目ごとに素晴らしい仲間に恵まれたことから、昨今は、これも「ご先祖様のお導き」と思えるようになりました。
◆ 第16回 高橋 秀直(たかはし ひでなお) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.06.16
いつの間にか私も65歳を超え、年金受給者となりました。若い頃抱いていた還暦過ぎのイメージといえば、第一線を退いて孫の面倒や趣味で過ごすというものでしたが、今の自分がそれに合致しているとは到底思えません。食生活、生活環境、医療技術、どれをとっても昔とは大違い。周囲を見ても皆、若々しく、美しく、長生きして当たり前の時代です。
「隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む」という言葉があります。中国の後漢の光武帝が覇道のさなかで「隴を攻め滅ぼしたのに、また更に蜀も攻め取ろうとしている。人間の欲望とは際限がないものだ」と自嘲した故事によるものです。現代を生きる私たちも、さらに豊かに若々しく 、さらに美しく健康でと望みは止まることを知りません。
日本では少子高齢化が超速で進み、人的資源の窮乏は喫緊の課題です。「老(ろう)を得て職(しょく)に臨む」元気なシルバー世代が経験を活かして貢献することが必要です。我々団塊世代ももう一頑張りというところでしょうか。
◆ 第15回 中島 信也(なかじま しんや) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.06.08
20年来ご家族で定期的に来院されていた患者さんが、どういう理由か2年半ぶりで久々に来院された。体を悪くされたのかと心配したが、そうではないとのこと。ご主人と会社を切り盛りして日々忙しくされていた方だったが、数年前によくできたお嫁さんを迎えたと話されていた頃と表面的には変わらない笑顔だった。久しぶりだったので恐る恐る拝見すると、脱離、破折が放置され、かなりのう蝕歯も認められた。食生活には変化もなく、体も健康であるとのことだったが、保険証が本人から家族へ変わっており、何がしかの家族環境に変化があったことが想像できた。状況を説明し、原因因子について色々話していると、段々寂しげな表情になってきて、家族の問題でかなりのストレスがあり自暴自棄になっていることを涙ながらに語り始めた。患者さんの生活を支える歯科医療とは、ご本人は勿論のこと、ご家族も含めた生活にも介入するという術者側のリスクを同時に抱えることになる。日常臨床の場では、毎日が勉強である。
◆ 第14回 大浦 清(おおうら きよし) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.04.30
1975年に薬理学の研究を始めて今年でちょうど40年になる。
薬物療法には、原因療法、対症療法、予防療法、補充療法、緩和療法等がある。ほとんどが対症療法なので、なかなか疾患をスカッと治すことが難しい。予防療法をもっと行えば疾患も減り、医療費の抑制にもつながるであろうが、そうたやすくはいかない。一般社会においても、少子化対策、受験生の減少(特に歯学部)、学会や歯科医師会等の会員数の減少等に対して、その時々の付焼刃的なやり方ではなく、原因療法、さらには将来を見据えた予防療法(対策)を取っておけば、もっとうまくいくのにと思っている。しかし、これも、~したら、~すれば、ではtoo lateである。日本は、今後益々、超高齢化社会に進んでいくので、エビデンスに基づいた歯科医療を行い、QOLの保持に欠かせない口腔の健康を維持し、国民の健康長寿に貢献してほしいと願う昨今である。日本歯科医学会の役割は今後益々大きくなるであろう。
◆ 第13回 俣木志朗(またき しろう) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.04.16
第2回の本稿で「ボート」のネタが出ましたので、それを受けて繋ぎます。フランスの詩人、ポール・ヴァレリーが、人生をボートにたとえた言葉を残しています。「ボートを漕ぐように、人は後ろ向きで未来に入っていく」。漕手にとって、目に映るのは過去の風景だけで、明日の景色は誰にも分からない。なるほど、人生というものは、見えない「明日」に向かって湖上のボートを漕いでいくようなものかもしれません。漕手には、自らが漕ぎ進んできた航跡と過ぎ去った風景しか見えませんが、舵取り役のコックスには、これから進む先が見えています。ボートは舵取り役と漕手間との高度な調和と統一が達成された時、飛躍的に艇速が伸びるものです。二期目を迎える舵取り役、住友雅人会長のもと、我々漕手はひと漕ぎ、ひと漕ぎを大事に積み重ねてゆきたいものです。しかし、ここに約束します。常任理事会の席上では、けっして船を漕ぐことのないよう会務に専念致します。
◆ 第12回 神原正樹(かんばら まさき) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.03.31
医学の父であるヒポクラテスの言葉に「Life is short, Art is long」とある。このArtは本来医術を意味し、人生は短いので、医療を究めようとすると長い時間を要するので、時間を大切に、日々研鑽に励み、継承していく必要があるとのことである。私が大学に関わってきたのも約半世紀になる。この間の社会は、振り返ってみると大きく様変わりしてきた。口腔の健康も、医療が国民皆保険制度のもとで、保健は健康日本21や健診を中心とした制度により、口の健康な人が増えてきている。歯科医療は、このような変化に対応して進展してきたのか、口腔保健も同様に適応しているのであろうか。時間軸をもとに、今後の新たな歯科医療や口腔保健のあり方を議論し、構築していくことを世の中から突きつけられている。将来の豊かな社会(人生)のために。
◆ 第11回 森戸光彦(もりと みつひこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.03.09
2015年にはnmn(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の臨床試験が開始されるらしい。老化を止めるのではなく、若返りが図れるという。「何歳まで若返りたいか?」と自問してみた。「45歳くらいかなぁ」という答えが返ってきた。大した意味はないが、それより若いと面倒なことが沢山ありそうで怖い。しかし、みんながこの物質を採り続けると、100歳以上の人間が溢れるばかりでなく、死ねない時代が来るのかもしれない。「停年はどうなるのか?」、「年金は大丈夫か?」、「家族が増えすぎないか?」、「住む場所は足りるのか?」とさまざまなことが頭をよぎる。若返ることで免疫が高まるので、疾病の罹患率も下がるだろうし、極論すると「間違いなく高齢者歯科は不要になる?」なんてことまで想像してしまう。永遠の命?不老不死は人類の永遠の課題と言われているが、限られた人生を有意義に過ごそうとするところに、ヒトとしての幸せがあるのかもしれない。
◆ 第10回 渡邉文彦(わたなべ ふみひこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.03.02
インプラント治療を始めてから35年になるが、心に残る四人の患者さんの涙を経験した。そのうち三人は悪性腫瘍摘出後の顎骨再建に伴うインプラント補綴治療を行った時である。
医療は「人を診る」「患者の声を聴く」を実践すべきであることは明らかであるが、一方で個人情報の流出や、治療に対する過剰なクレームがなされることがあると、どこまで患者の心の中まで入りこんで治療にあたれるかは難しい。昔の赤ひげのような治療を懐かしむ人もいる。今は治療の評価は点数で評価され、誰が行っても同じ評価となる。
医療の本質は患者の痛みや苦痛をとり除き、失われた機能の回復を手助けし、希望を与えることである。その評価としての報酬がある。医療人の意識、患者の意識が何かかみ合わない現在の社会がそこにある。医療の原点は信頼にある。
患者の身になって治療にあたるには、患者の心の中を覗くことも必要である。この認識を常々感じている。
◆ 第9回 栗田賢一(くりた けんいち) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.02.12
高齢者とは65才以上である。私も遂に高齢者になった。高齢者の同義語は「老人、年寄り」である。こう呼ばれるのは抵抗感がある。別名を調べてみても65-74才までは前期高齢者(ヤングオールド)、75才以上は後期高齢者(オールドオールド)と高齢者は付きまとう。ヤングオールドと言われても、やはりオールドは骨董品に近い。シニアはどうか?大好きなボウリングやゴルフでは55才以上を、何とフィギュアスケートでは15才以上をシニアと呼んでいる、シニアグラスならもう15年以上使っている。どうもシニアは年齢幅が広すぎてよくない。ならばシルバーはどうか?実はシルバーは渋くて気に入っている。65才以上をシルバーエイジ、75才以上をゴールドエイジ、85才以上をプラチナエイジと呼んだらどうかと提案したい。この方が加齢とともに輝くではないか。でも、そのエビデンスは?いやいや、年齢や人生にはエビデンスなどどうでもよいと思う。
◆ 第8回 山﨑要一(やまさき よういち) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.02.02
鉄腕アトムと鉄人28号、昭和30年代の子どもたちの絶対的ヒーローである。第二次大戦後のすべてを失った荒廃から、稀にみる経済発展の幕開けに差しかかろうとしていた我が国の激動の時代の中で、正義とは何か、世界平和とは何かについて、これらのアニメは幼い心に繰り返し問いかけ、科学技術の素晴らしさを説き、各世代の中でも最も夢見る幸せな幼少期を過ごせた時代である。
不幸にして想像を絶する大規模自然災害や原発事故など困難な試練に直面しているが、けっして逃げ出さず、チーム一丸となって正面から取り組み、事態を克服するために黙々と努力し続ける各人の姿は、遠い過去から日本人の精神に深く刻み込まれ、時代が移り変っても脈々と受け継がれているとても大切な特性である。
子どもの頃の人との関わりや様々な体験は、その後の人間形成に少なからぬ影響を与える。この国に生まれ、未来を担う世代と関わる職務に就いていることを幸せに思う。
◆ 第7回 永田俊彦(ながた としひこ) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.01.26
徳島大学に務めて36年になる。長く地方で生活してみると田舎のよさが分かってくるが、若者には地方は退屈なようで、毎年、医学部歯学部では卒業生の50%前後の学生がすぐに徳島大学を離れてしまう。もともと四国出身者は3割程度と少ないのだが、以前は卒業後も大学に留まって臨床や研究に励んだ人材が沢山いたように思われる。徳島大学が将来も輝けるように若者の教育に日々力を注いでいるが、定年も近づき最近は自らのパワーも落ち気味である。学生が地方を離れる大きな要因の一つとして社会全体の大都市への一局集中化現象が上げられる。大都市と地方ではスタートラインから条件が違うところで一種の虚しさを感じているが、これは日本全体の重大な社会問題でもある。愚痴っても仕方ないので、中小企業の社長さんのように少ない人材を大切に育てつつ、少数精鋭で物事にチャレンジする気概だけは大都市の人々に負けないようにと心がけている。
◆ 第6回 和泉 雄一(いずみ ゆういち) 日本歯科医学会常任理事 / 2015.01.05
四百字の唄をウッカリしている間に、カワハギ釣りのベストシーズンを逃してしまった。しかし、なお熱い釣果が出ているそうだ。キモもふくらみ、想わず涎がでてしまう。海水温の低下に合わせて、狙う水深が30~50㍍と少々深くなったという。竿は先調子のカワハギ竿、独特の仕掛けを使う。エサはアサリのむき身。こちらもハリ先をワタの部分に止まるように装着。タナ取り、誘いも重要だ。「エサ取り泥棒」なので、アタリがあってからのアワセもひと工夫。アタリがありハリ掛かりさせるまでに一筋縄ではいかない相手だ。ここで一考。歯科治療はまさにカワハギ釣りそのものではないか。疾患によって治療法が決まっている。医療技術や材料の進歩がその治癒を確固たるものにしている。しかし、疾患を早く、きれいに治癒させるためには、術者の治療感覚と独特の技術が必要だ。カワハギを釣るために釣り感覚と技術を鋭くする必要があると同様、治療感覚と技術を常に磨くことが必要だ。
◆ 第5回 櫻井 薫(さくらい かおる) 日本歯科医学会常任理事 / 2014.10.10
四百より四つ多いが、仏教語で人間がかかる一切の病気のことを表す「四百四病」という言葉があり、人体は、地・水・火・風の四大から構成されていて、その調和が破れると、それぞれ百一の病気を生ずるとされる。総義歯でもバランスが大切で、人工歯排列と削合をきちんと行い両側性均衡と片側性均衡が成立しないとうまく咀嚼できないばかりでなく、発赤、角化、潰瘍を生ずる。有歯顎者では咬合の調和がとれていないと、歯だけではなく筋肉や顎関節も障害を受ける。ちなみに恋わずらいは、四百四病に入らないことから「四百四病の外」といわれる。
私が理事長を務める一般社団法人日本老年歯科医学会は、ワークショップを経て「口腔機能低下症」という病名をつくった。これは舌機能、咀嚼機能、唾液分泌、味覚などの複数の機能が程度の差はあるが同時に低下している高齢者に多い疾患である。場合によっては「四百四病の外」でも口腔機能低下は起こるかもしれない。
◆ 第4回 井上 孝(いのうえ たかし) 日本歯科医学会総務理事 / 2014.10.03
格闘技が大好きな私が、「歯を失う原因を挙げろ」と言われたら、間髪いれず、キック、パンチ、エルボー、頭付き等と答える。生え変わる乳歯、交通外傷、齲蝕、歯周病とは思わない。
医者の兄も熱狂的プロレスファンで、リングドクターまで勤めている。「タカシ、流血するとレフリーが試合を止めて、リングドクターをリングに上げるだろ?そんな時は、一応診る振りをするんだ。でも、絶対に試合を止めない。どんなに血が出ても所詮静脈血だ、死にゃあしない。歯なんか折れたって、抜けたって大丈夫」と嬉しそうに話す。しかし、私がプロレスラーの折れた歯を治そうという動機で、そして、プロレスのメッカ後楽園に近いという理由で東京歯科大学を選んだかどうかは定かではない。今歯科医学会で問題になっている新病名に「パンチ・キック歯壊症」、専門医に「暴力外傷専門歯科医」はどうだろう。心残りは、亡きジャイアント馬場氏の口の中を見てみたかった・・・。
◆ 第3回 今井 裕(いまい ゆたか) 日本歯科医学会副会長 / 2014.08.26
損傷を受けた組織の再生や機能回復を目的とした医療は「再生医療」と言われ、京都大学の山中教授により発見されたiPS細胞により、最先端医療として注目されている。しかし、この先端医療開発に際し、医療の本質である安全性の担保や科学的評価と倫理的評価との乖離が指摘され、社会問題にまで発展している。識者によれば、その解決には医療倫理の原則ならびに生命倫理における予防原則という共通した価値観に立ち戻ることが重要であるとしている。
今、われわれ歯科という組織も傷つき、再生の必要性が叫ばれているが、歯科共通の価値観は、「歯科医学を振興することによって歯科医療を向上し、国民及び人類の福祉に貢献すること」で、ここにわれわれの矜持があると思う。歯科医学が医療分野におけるイノベーションを生み出し、組織として再生するためにも、今一度この価値観を共有し、原点へ立ち戻ることが必要で、そのためにも歯科医学会の持つ責任は大きい。
◆ 第2回 松村英雄(まつむら ひでお) 日本歯科医学会副会長 / 2014.08.01
今期組織が活動を開始してから1年あまりが経過した。会務については船出、順風満帆、大船に乗る、泥舟にならぬよう等々、舟艇にまつわる単語が多い。
現役員には64年東京五輪代表、舵手なしペアの黒崎紀正顧問、76年モントリオール五輪代表、エイトの俣木志朗常任理事、日大体育会ボート部部長の松村他、元漕手を含む。学会の「舵取り」役会長は住友氏であるが、ボート、日歯の会長は共に大久保氏というのも偶然の一致である。
昨年は、住友-俣木ボートクラブなどと称する新規プロジェクトの企画案も浮かんだが、略せば銀行に同じ(=SMBC)という偶然の一致となる。小生が最近すべり続けるギャグも所謂同音異義語の世界なのだ、としみじみ想う。
学会は今、法人化に向けての準備と議論を進めている。分科会と日歯双方にとって最良の組織となるよう思案を重ねている。毎日地下鉄で通勤している自分にとって、当分「夜も眠れない」日々が続く。
◆ 第1回 住友雅人(すみとも まさひと) 日本歯科医学会会長 / 2014.07.17
TBSラジオで「誰かとどこかで」という人気番組があった。その番組中にリスナーからのはがきを紹介する「七円の唄」は、今も鮮明に耳に残っている。
今回、日本歯科医学会のホームページに「四百字の唄」コーナーを設ける。はじめは学会の役員から登場する。
私がこのコーナーを思いついたのは、ある業界新聞のシリーズ企画で日本歯科医学会分科会の代表者たちと対談したときである。分科会を代表する方々の幅広い見識には、いつも脱帽させられた。歯科界には、専門的知識はもちろんのこと、人としての深い見識が豊かに存在している。
この「四百字の唄」を通して、まずは各分科会代表者の個性を知っていただき、学会の重要使命のひとつである各分科会間の連携、いわゆる横糸づくりの一環として活用していただきたい。そして歯科界ばかりでなく、あらゆる人々がこのコーナーを楽しみにしてくだされば、社会と歯科界との距離がまた少し縮まるという淡い期待も抱いている。